コラム
» 2007年06月04日 12時30分 UPDATE

金融・経済コラム:国内ベンチャーよりも、米国、中国?

これまで国内のベンチャーキャピタルの出資先は、ほぼ日本のベンチャー企業に限られてきたのですが、その傾向に変化が見られます。これが国内ベンチャーへの出資が縮小することにならなければいいのですが。

[保田隆明,ITmedia]

 最近、いくつかの独立系のベンチャーキャピタルの幹部の方々と話す機会があったのですが、1つ印象的だったことは、彼らが米国と中国に熱い視線を向けていたことです。

米国、中国に熱い視線の国内ベンチャーキャピタル

 海外投資案件には手を出さない、これが国内のベンチャーキャピタルでの暗黙の了解でした。いくら魅力的な案件があると聞いても、それが海外のものだと知ると検討もしないことが多かったりします。その理由としては、言語の問題もありますし、過去の海外案件で失敗してきたこともありますが、一番の理由は、本当に魅力的な案件であれば先に現地(特に米国の場合)のベンチャーキャピタルが出資しきっていて日本のベンチャーキャピタルに出番があるはずがないということです。

 ベンチャー投資の世界は情報収集と目利きが重要ですので、海外の投資案件を扱う場合は、それなりのリソースを海外でかける必要があります。その点、国内のベンチャーキャピタルの場合、大手でも海外のリソースは非常に限られています。したがって、当然ですが、海外案件で魅力的なものにありつける可能性はあまりありません。

 そういう背景もあり、日本のベンチャーキャピタルが米国や中国に目を向けるというのは今まではあまりありませんでした。しかし、その風向きが変わってきたのです。上述のようなハンディがあっても、それらの地域に惹かれるというのは、逆説的にはそれだけ国内の投資環境が魅力的ではないということなのかもしれません。

英語サービスがそのまま日本人に利用される

 一方、IT系ベンチャー企業勤務の方から聞いた話の中にも印象に残るものがありました。それは、日本でうまくいくインターネットサービスを考えるに、以前であれば米国のサービスを日本語にしてローカライズすればある程度うまくいったのに、YouTube、Twitterなど、ローカライズされずとも海外のサービスのままでも日本人が楽しんで使えてしまう状況ができつつあることは脅威である、というものでした。確かにYouTubeもTwitterも日本語版があるわけでもないのに、日本人のユーザーが少なくありません。

海外で流行ったサービスの日本版というだけでは投資をしてもらえない時代に?

 そうなると、以前よくあった投資形態である、海外で流行ったサービスのローカライズ企業への投資が日本で先細りする可能性があります。代わりに海外ベンチャー企業のうち、日本でも、あるいは、世界中で受け入れられそうなサービスを展開する企業に投資をし、世界の一部として日本もカバーするという戦略の方がリターンも高そうです。

日本のベンチャー市場規模はまだ小さいのに

 米国のベンチャー投資規模と日本のそれを比べると、日本は10分の1以下です。一方、両国はGDPなど経済規模で比べると日本が約半分。その観点では、日本のベンチャー投資市場の規模はまだ小さく、もっと大きくてもいいわけです。しかし、国内のベンチャーキャピタルが海外市場に目を向けつつあるというのはなんとも皮肉な状況です。

 また、ジャスダック市場のPER(株価収益率)が、東証上場企業のそれを下回ったというニュースもありました。本来であれば、より高い成長性が期待されるジャスダック市場のPERは東証のそれを上回るはずです。しかし、ジャスダックのPERが下落したということは、市場はジャスダック上場企業の成長性を東証に上場する伝統的な大企業群よりも低く見ていることになります。

 これら一連のことは、未上場、上場にかかわらず国内ベンチャー市場が縮小していることを示唆します。ただでさえ米国比では、ベンチャー市場が小さいのに、その市場規模がますます小さくなると国内で資金調達をしようという国内ベンチャー企業も少なくなってしまい、今はやりのロンドンAIM市場などに流れていってしまうかもしれません。

コミュニケーション型サービスだけであればいいのだが

 YouTubeもTwitterも、サービス内容や操作性が簡単で、英語のサービスでも分かりやすいという点が日本人にもウケる理由でしょう。また、コミュニケーション型サービスであり、海外のプラットフォームを用いて日本人同士がコミュニケーションをしているケースが大半です。

 それらから判断するに、ECやメディア型サービスの場合は、引き続き日本語版のローカライズされたものが必要になると思われます。Scond Lifeが日本語版のリリースを進めるのもそういう面もあるのかもしれません。

 そう考えると、ベンチャー市場でのジャパンパッシングは操作性の簡単なコミュニケーション型サービスに限定されたこととなるので、上述したような国内ベンチャー市場の縮小という懸念は、杞憂に終わるかもしれません。

 しかし、最近聞いたいくつかの話と、ジャスダックのPERが東証のそれを下回るという象徴的な事象が重なったタイミングがあまりにタイムリーであり、個人的には今後の日本のベンチャー市場に対する大きな不安を覚えたのでした。この不安を解消してくれるのは、国内で魅力的なベンチャー企業が続出すること、それのみでしかありません。

関連キーワード

Second Life | Twitter | ベンチャー | YouTube


保田隆明氏のプロフィール

リーマン・ブラザーズ証券、UBS証券にてM&Aアドバイザリー、資金調達案件を担当。2004年春にソーシャルネットワーキングサイト運営会社を起業。同事業譲渡後、ベンチャーキャピタル業に従事。2006年1月よりワクワク経済研究所LLP代表パートナー。現在は、テレビなど各種メディアで株式・経済・金融に関するコメンテーターとして活動。著書:『図解 株式市場とM&A』(翔泳社)、『恋する株式投資入門』(青春出版社)、『投資事業組合とは何か』(共著:ダイヤモンド社)、『投資銀行青春白書』(ダイヤモンド社)、『OL涼子の株式ダイアリー―恋もストップ高!』(共著:幻冬舎)、『口コミ2.0〜正直マーケティングのすすめ〜』(共著:明日香出版社)、『M&A時代 企業価値のホントの考え方』(共著:ダイヤモンド社)『なぜ株式投資はもうからないのか』(ソフトバンク新書)。ブログはhttp://wkwk.tv/chou/


Copyright© 2016 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

Loading

ピックアップコンテンツ

- PR -

マーケット解説

- PR -