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レコメンデーションの虚実(最終回)〜ソーシャルレコメンデーションという新世界ソーシャルメディア セカンドステージ(1/2 ページ)

» 2008年02月25日 13時50分 公開
[佐々木俊尚,ITmedia]

いまレコメンデーションが求められる理由

 これまで18回にわたって、レコメンデーションの可能性とその限界についてさまざまなアプローチから考えてきた。

 レコメンデーションという用語がなぜいま注目を集めているのかという理由を、もう一度ここで提示しておこう。最大の理由は、検索エンジンやブログのRSS配信など、使いこなすためには高度なスキルが必要なツールでは、情報の洪水をうまく泳ぎ切るのが不可能になりつつあるからだ。ネットの情報量が認知限界を超えてしまっているのである。以前(認知限界をどう乗り越えるのか)にも書いたが、認知限界というのは米国の経営学者が発明した言葉で、外の世界がどんどん複雑になってくると、人間はその複雑さを処理できなくなってしまうという意味だ。情報の量が天文学的になり、これを検索エンジンなどのさまざまなアーキテクチャによって情報の数を減らし、世界を単純化させようという大きなテーマが生まれた。認知限界を解消するために、見えている世界をもっと単純化し、シンプルにすっきりと、かつ的確にユーザーに提示してあげる必要性が生まれてきたのである。つまりは情報アクセスアーキテクチャのおせっかい化ということだ。

 加えて、インターネットの利用者層が拡大していることがある。2000年ごろまではアーリーアダプターなど比較的専門性の高い人、インターネットリテラシーの高い人に限られていたネット利用が、ブロードバンドの普及にともなって一般のレイトマジョリティーにまで拡大した。またネットにアクセスするためのデバイスも、パソコンから携帯電話へとその中心が転換しつつある。

低リテラシー層+携帯電話層

 前者のような低リテラシー層には、検索エンジンのようなプル型の情報アクセスアーキテクチャは使いづらい。彼らの住んでいる世界というのは、きわめて直感的かつ曖昧な世界である。インターネットの世界を支配しているロジックとは縁遠い。例えばモノを買うという行為をひとつとっても、商品の選択や検索に的確なロジックは期待できない。例えばデジカメを購入するという行為を考えてみよう。リテラシーの高い人であれば、まず自分がどのようなカメラを求めているのかを可視化させ、その必要スペックをもとにネットにアクセスし、検索エンジンや価格比較サイト、クチコミ評価サイトなどによって多角的に比較しながら、自分の買うべき商品を絞り込んでいく。しかしリアルの世界に目を転じてみれば、そんな風にモノを買える人なんていうのはどちらかといえば少数派だ。例えば近所のオバチャンだったら、まずは駅前の大型家電量販店に行って、親切そうな販売員にこう言うだろう。「デジカメがほしいんだけど、何を買えばいい?」。優秀な販売員であれば、巧みにオバチャンのニーズをすくいあげ、そのニーズに適切にマッチしたデジカメを見つけ出して、レコメンドしてくれるはずだ。

イラスト

 こうしたレコメンドをいかにしてネット上に持ち込むか――それがレコメンデーションが期待される大きな動機のひとつとなっている。たいていの人は、インターネットに対しても、よりリアルの社会感覚に近いファジーなインタフェースを求めているのである。

 後者の携帯電話層も同様だ。携帯電話の画面は情報量が少なく、横幅が全角15文字、縦が9行というのが大半だ。文字を小さくすれば情報量を増やすことはできるが、あまりにも小さくしてしまうと、今度はリンクのクリック率が落ちてしまうと言われている。逆に文字を大きくすればクリック率は上がるが、今度は操作がしにくくなるという別の問題が生じる。きわめて限界点に近いところで、携帯コンテンツのインタフェースはデザインされている。この結果、例えばパソコンのインターネットのような「選択肢が多い」ということは喜ばれない。選択肢が多ければ画面をスクロールしなければならないし、そもそも仕事で画面を必死で見つめているような使い方が多いパソコンと異なり、携帯電話はダラダラと見るデバイスである。ダラダラしているときに選択肢が多いのは、ただ面倒なだけだ。

 そこで携帯の世界では、いちいち検索キーワードを入れなければ情報が出てこないプル型メディアではなく、何もしなくても情報がどんどん出てくるプッシュ型のメディアが求められている。つまりはレコメンデーション的なインタフェースが最適なのだ。

 しかしいずれにしろ、上記のようなレコメンデーションはフロントエンドの部分の話に過ぎない。最も重要なのはこうしたインタフェースではなく、バックエンドでどのようなレコメンデーションエンジンが動いているのかということである。つまりは「何をもとに」に「どのようなロジック」でそのレコメンデーションエンジンが動いているのかということだ。

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