コラム
» 2008年09月12日 19時19分 UPDATE

科学なニュースとニュースの科学:量子コンピュータって何? その4

NTTと大阪大学の量子計算に関する発表の意味を解説するために、量子コンピュータの仕組みを“簡単に”説明する、という難題に(無謀にも?)挑んだこのシリーズ。4回目の今回ついに完結です。

[堺三保,ITmedia]

 お待たせしました!

 ようやく第35回で紹介した新聞発表の話に戻りたいと思う。

 あれは「NTTと大阪大学は、『量子テレポーテーション』を使った量子計算に成功したと発表した。この技術は、量子コンピュータの実現に有望だとされており、実現への突破口が開かれたとされている」という話だった。

 量子コンピュータは原理的には、通常のコンピュータが演算に利用している「ビット」を「量子ビット」で置き換えたものだという話を覚えておられるだろうか。

 この「量子ビット」をどうやって実現するかが、量子コンピュータを実際に作るうえでの課題なのだが、NTTと阪大は、そこに量子テレポーテーションを応用したというのである。

 前回も書いたが、量子テレポーテーションのアイデアは、量子の絡み合いを利用して、絡み合った量子の片方から片方に情報を伝達しようというものだ。

 NTTと阪大の研究は、このアイデアを元に、量子テレポーテーションによって、通常のコンピュータの基礎となっている論理演算素子を構築するというものだ。それはつまり、上記の言葉で言い換えれば、「量子ビット」を用いた論理演算素子である「量子ゲート」を作るということになる。

 しかも、今回の発表が画期的だとされているのは、本当に量子演算によって結果が出されていることをはっきりと実証している点にある。

イラスト イラスト:本橋ゆうこ

 実は、量子テレポーテーションを用いた計算においては、絡み合った量子を演算素子として使いつつも、古典的な(つまり通常の)通信処理によって、結果を送信して出力を出す。このとき、この古典通信の段階で、すでに情報が足りているのではないか(量子テレポーテーションによって答えが出ているのではないのではないか)という疑問が生じていた。

 ところが、今回の実験は古典通信によって計算が行われているときの理論的な限界値をきちんと出した上で、それを上回る精度で演算が行われたことを証明、実際に量子の絡み合いによって量子演算が行われていることを実証してみせたというのである。

 今回の発表が、量子コンピュータの実現に向かっての、大きな前進であることはまちがいない。遠くない将来、今のコンピュータの処理速度をはるかに超えた、量子コンピュータが誕生するかもしれないのだ。

 とはいえ、量子コンピュータが万能の次世代コンピュータになりうるとは限らない、という見方も存在する。量子コンピュータには、得意な演算と不得意な演算があるというのだ。

 近年、量子コンピュータの研究が一気に進んだのは、1994年、AT&Tベル研究所のショアが、量子演算によって因数分解を行うための「量子アルゴリズム」を発表したためだ。

 これによって、量子演算の実用性に注目が集まり、実用化に向けた研究が進んだわけだが、一方で、現時点ではまだこのショアの「量子アルゴリズム」を超えるようなブレイクスルーをもたらしてくれる、新しい量子アルゴリズムは発見されていないという。

 そのせいもあって、量子コンピュータは、因数分解を元とした暗号化やその解読には効果を発揮するだろうが、現在のコンピュータのように多様な演算や記号処理まで扱うのは難しいのではないか、という考えもあるのだ。

 はたして、量子コンピュータは、21世紀の超コンピュータとなりうるのか。今後の研究に注目していきたい。

 というわけで、長々と続いた「量子コンピュータ」の話はここまで。読者の皆さま、お疲れ様でした(笑)。

堺三保氏のプロフィール

作家/脚本家/翻訳家/批評家。

1963年、大阪生。関西大学大学院工学研究科電子工学専攻博士課程前期修了(工学修士)。NTTデータ通信に勤務中の1990年頃より執筆活動を始め、94年に文筆専業となる。得意なフィールドはSF、ミステリ等。アメリカのテレビドラマとコミックスについては特に詳しい。SF設定及びシナリオライターとして参加したテレビアニメ作品多数。最近の仕事では、『ダイ・ハード4.0』(翻訳:扶桑社)がある。2007年1月より、USCこと南カリフォルニア大学大学院映画学部のfilm productionコースに留学中。目標は日米両国で仕事ができる映像演出家。

ブログは堺三保の「人生は四十一から」


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