コラム
» 2008年10月06日 09時38分 UPDATE

「ジョブズ氏が心臓発作」報道で考える匿名情報の信頼性

「ジョブズ氏が心臓発作で病院に運ばれた」というiReportの匿名報道をAppleは否定した。問題は、本当のことを言っているのは誰か、その動機は何かだ。

[Joe Wilcox,eWEEK]
eWEEK

 今週のAppleはさらに悪いことになっていた可能性があるのだろうか。今朝までそんなことは思いもしなかった。

 CNNの市民記者サービスiReportは、Appleのスティーブ・ジョブズCEOが心臓発作で病院に運ばれたと伝えたという。サラ・ペレスがその内容をReadWriteWebのブログに掲載した。サラがリンクを張ったiReportの記事はもう閲覧できなくなっており、これが誤報だというサラの主張を裏付けている。

 記事がなくなってしまった以上、わたしには報道の真偽は確認できない。iReporterのjohntwが書いた記事として、サラが転載した内容は以下の通り。

 スティーブ・ジョブズ氏が深刻な心臓発作を起こし、数時間前に緊急救命室に運ばれた。内部関係者がわたしに語ったところでは、ジョブズ氏は胸の激しい痛みと息苦しさを訴え、救急車が呼ばれた。情報源は明かせないが、極めて信頼できる人物だ。これについて伝えたものはほかのどこにも見つからず、現時点でこれ以上の情報はない。そこでここから始めるのがいいと思う。もし誰か情報を持っている人がいたら、共有してほしい。

 サラがこれを掲載したのは、米太平洋時間と思われる午前6時56分。ということは、johntwのiReportはその朝のこれより早い時間に出たことになる。Silicon Alley Insiderのヘンリー・ブロジェットは、「われわれがAppleの否定コメントを掲載した約20分後」、つまり米東部時間の午前10時15分ごろにCNNはiReportの記事を削除したとしている。否定したのはAppleの世界コミュニケーション担当副社長、ケイティ・コットン氏。

 コットン氏は、広報担当者としてはジョブズ氏にかつてなく近い所にいる人物だ。物理的にくっついていると言ってもいい。ジョブズ氏が行くところ、ほぼどこにでもコットン氏がいるからだ。ジョブズ氏が救急車の中にいたならコットン氏もいただろう。電話の向こうから病院の物音が聞こえなかっただろうか、ヘンリー?

 わたしがまず考えたのはヘンリーと同じ、株価操作の可能性だ。「われわれの予想では、米証券取引委員会が調査に乗り出すだろう」とヘンリーは書いた。

 Apple株にとっては既に悪い週になっていて、これ以上悪くなりようがなさそうに見えた。米下院で7000億ドルの金融安定化法案が否決され、ほとんどのハイテク株が下落した9月29日、Apple株は18%近く下げて105.26ドルで引けた。事態はさらに悪化し、2日の終値は100.10ドルになった。3日の早い段階ではjohntwのiReportを受け、Apple株価は一時94.65ドルをつけたが、本稿執筆時には104ドル台まで戻している。

 スティーブ・ジョブズ氏ほど会社と一心同体になっているCEOはほとんどいない。ジョブズ氏の健康状態とAppleのそれが直結していることは、同氏の健康不安説が浮上するたびに株価が下がることでも分かる。誰かが意図的に、あるいは第三者にだまされて、ジョブズ氏の健康状態に関する報道でApple株価を操作することは十分考えられる。

 問題は、本当のことを言っているのは誰か、その動機は何かだ。johntwの匿名報道を、ケイティ・コットン氏が否定した段階で誤報だと言うのは簡単だ。わたしはjohntwが間違ったか、方向を誤ったか、ミスリードされたと信じたい気持ちに傾いている。しかしわたしはほかのことも気になっている。コットン氏は広報業界では、上司を固くガードしていることで有名で、その上司の健康状態は謎に包まれている。わたしは7月に、ジョブズ氏の健康状態がなぜ問題で、Appleなどの上場企業はなぜCEOの健康状態を毎年報告しなければならないのかについて説明した。米国大統領がそうなのだから、上場企業のCEOにそうしない理由があるだろうか。

 有名人がパパラッチに付きまとわれるのをどれほど嫌うかは知っている。しかしAppleにとっては今、パパラッチをそそのかしてかぎ回らせ、健康なスティーブ・ジョブズ氏が自宅にいたり出社したりする写真を撮らせるのは非常にいいことだろう。その中の何人かが万が一に備えて地元の病院に張り込んでいるのは疑いない。ジョブズ氏の健康状態についてのAppleの過去の秘密主義を考えると、あの報道が誤報だと信じるためには単なるケイティの否定コメント以上のものが欲しい。ジョブズ氏の運命が会社の運命と直結していることはケイティも知っているのだ。

 そして、匿名が汚名に変わろうとしているjohntwだ。ヘンリーとサラは2人とも、特にサラはCNNに対して批判的だ。問題なのはCNNではなく匿名報道だ。iReporterは1人も匿名であってはならない。ジャーナリストは匿名ではない。なぜなら信頼性が必要だからだ。特に上場企業について報じる場合、ジャーナリストにはニュースを正確に伝える義務がある。市民記者は自分の報道の威力が分かっていないかもしれないが、特にRSSフィード、チャット、動きの速い検索インデックスによって、自分が書いたものはあっという間に広まりかねないのだ。プロのジャーナリストと同様、アマチュアであっても責任ある姿勢は必要だが、匿名ではそれがはるかに難しくなる。

 スティーブ・ジョブズ氏の心臓発作に関する情報が、例えばYahoo! Financeの投資家フォーラムに掲載されたとしたら、どのくらい真剣に受け止めるだろうか。匿名投稿は疑わしいと思うだろう。CNNブランドによって、たとえ一時的にせよ、johntwの匿名報道に信頼性が加わった。わたしは長年、どんなものであれ匿名投稿には反対してきた。もし自分で選べるものなら、このブログやMicrosoft Watchには匿名コメントはなくなるだろう。

 テレビドラマ「ドクター・ハウス」の主人公グレゴリー・ハウス医師は「誰もがうそをつく」と言う。わたしはそうは思わない。しかし匿名情報の信頼性は疑う。なぜなら書いた人間が隠れてしまうからだ。さて隠れる理由は何だろうか。

原文へのリンク

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