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ChromeのMac版がなかなか出なくてよかったね、Apple

» 2009年01月15日 11時51分 公開
[Joe Wilcox ,eWEEK]
eWEEK

 なんてことだ。米GoogleのChromeのMac版は向こう6カ月は出ないらしい。あなたは残念かもしれないが、Macファンや米Appleにとってはそうでもない。GoogleはAppleに素晴らしい贈り物をした。

 Mac版Chromeの開発スケジュールからはまた、GoogleのMicrosoftとの直接対決への決意と、同社がSafariを競合としていかに軽く見ているかがうかがえる。理論的には、Chromeがシェアを奪うなら、Internet Explorer(IE)からよりもFirefox、Opera、Safariからの方がずっと簡単なはずだ。Mac版Chromeは明らかに優先すべきものだが、そうなってはいない。

 ChromeのMac OS Xへの移植がいかに困難かについては、この際触れないでおこう。MacはGoogleにとっての優先事項ではない。ほら、GoogleがようやくPicasaのMac対応版をリリースしたのは先週のことだ。GoogleはもうChrome 2.0の開発を進めているというのに、Mac版はまだまったくリリースされていない。そう、GoogleではMacは大して重要ではないのだ。うう、誰かわたしが泣き出す前にティッシュをくれないか?

 多くのMacユーザーはSafariを自慢して、当然ながらChromeを大した脅威だとは思っていない。そうかな? 分かってないね。Windowsからの転向者とネットのエキスパートはMacの市場シェアを膨らませている。そしてネットのエキスパートにとっては、Appleだけでなく、Googleもお気に入りのブランドだ。ほかにも考えられることは以下の通り。

  • ChromeはSafari同様、WebKitベースだ。両者は優劣付けがたい
  • Windows版では、ChromeはSafariよりずっといいブラウザだ
  • SafariはAppleにとって単なるブラウザだ。ChromeはGoogleの中核であり、同社の検索その他のWebサービスを広める。Googleは本気で競争するだろう

 ChromeはMac版Safariにとって確実に脅威となるだろう。Windows版では既にそうなりつつある。わたしの予想では、Chromeは向こう3カ月以内にWindows版Safariのシェアを奪い始めるだろう。

 結局、GoogleはMicrosoftを打ち負かしたいのだと思う。Googleの新しいアイデアをMicrosoftが追いかけるというのが戦術のすべて、というわけではない。Chromeは、開発者向け2.0リリースが示すように、プラットフォーム戦略だ。ChromeはGoogleにとって、1998年のMicrosoftにとってのWindowsなのだ。 1998年のWindows作戦と比べてどのあたりがすばらしいものなのか、興味深い。

 MicrosoftはWindowsの早期バージョンから外部のテクノロジーを統合してきた。だが、Netscapeとのいわゆるブラウザ戦争の間、MicrosoftがWindowsにIEを統合したころは、バンドリング戦略が激しくなっていた。奇妙なことに、Microsoftは現在、Googleがやっているほどにはバンドルしていない。

 Googleはごう慢になり、同社が本当に邪悪なことをせずに金をもうけられるかどうかという疑問が生じている。eWEEKで「Google Watch」コラムを担当している同僚のクリント・ボールトンは1度ならず2度ならず3度までも、Chromeへの製品やサービスのバンドルに関連するGoogleの邪悪さについて投稿している。ボールトンいわく、

 GoogleのChrome立ち上げは、同社が純粋であったピークを過ぎたことを意味する。慈善事業部門のGoogle.orgがあると、好きなだけ抗議するがいい。だがChromeは、われわれの多くが思っていた通り、Googleが力を渇望する機械であることを暴いたとわたしは思う。ChromeはGoogleを効果的にMicrosoftの土俵に載せた。ただし、デスクトップではなくWebの、だが。

 米調査会社Net Applicationsによると、Chromeのシェアは1%をやや上回る。無論、これではIEにとっては大した脅威ではない。IEのシェアは少なくともその70倍なのだ。だが、Chromeのシェアは8月にはゼロだった。成長は急激で、拍車が掛かるばかりだ。MicrosoftがIEの普及にWindowsを利用したように、GoogleはChromeの採用促進のために、検索やメールその他のサービスをバンドルするだろう。その後は、新サービス普及のためにChromeを利用するだろう。

 GoogleがWindows上でブラウザにサービスをバンドルすることに集中している限り、Appleにとってはいいニュースだ。ChromeはWindows版Safariのシェアを侵食するだろうが、今のところMac版は安全だ。

 Googleの最大の関心がWindowsにあるのは、ユーザー数によるものだと反論する向きも必ずやあるだろう。Windowsユーザーの方がはるかに多い。だが発言には注意した方がいい。市場シェアを引き合いに出すのは、Windows向けウイルスの方が多いことを正当化したり、Macをゲーム開発の有望なプラットフォームではないと決め付けたり、その他いろいろな議論で使い古された手だ。

 だが無論、市場シェアの大きさはWindowsをMacより魅力的なプラットフォームにしている。なんだって? Googleの何十億ドルもの広告収入がMacによるものだとでも? Windowsだ。あえて言わせてもらおう。やっぱりあなたは分かってないな。

 Googleの意図がどうであろうと、ChromeはMac以外のプラットフォームで最高に輝いている。SafariはAppleにとって、iPhoneとMobileMeのために重要だ。Safariからシェアを奪うChrome利用の増加はMacを傷つける可能性がある。まったく、Googleはずる賢い。恐らく同社は、Chromeの成功がMacを痛めつけるリスクの可能性を理解している。Microsoftとの競争という観点からは、GoogleはLinuxとMacを損なうようなことをすべきではないのだ。

 だから、ChromeのMac版が遅れていることを嘆いているMacファンは喜ぼう。今日は素晴らしい日だ。

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