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» 2006年08月10日 19時25分 UPDATE

3層構造に込められたセキュリティへの願い――ダイヤルバンク印開発秘話

 ダイヤル操作で64通りの印影を選べる「ダイヤルバンク印」。三菱鉛筆でさっそく触ってきました――。

[鷹木創,ITmedia]

 8月4日掲載した記事「ダイヤル操作で印影が64通りに変化する印鑑」は、先週1週間のBiz.ID Weekly Top10で一躍トップに立った。

st_db01.jpg ダイヤルバンク印

 独特のダイヤル構造に加え、ステンレス製の本体から醸す高級感などが読者の興味を引いたのかもしれない。はてなブックマークに寄せられたコメントを読むと、「すばらしいアイディア」「模様が変わるのは面白い」「アイデア賞ですね」など、商品のコンセプトが評価されたようだ。

 受注生産ということもあり、本格的に市場に出回るのはこれから。2万1000円と印鑑としては高価な商品のため、近所の文房具店では注文すら受け付けていないケースもあるだろう。そこで、編集部では三菱鉛筆本社に乗り込み、いち早くダイヤルバンク印を触ってきた。

st_db02.jpg 三菱鉛筆本社

「ダイヤルがカチッと嵌ること」「鮮明な印影であること」

st_db03.jpg 企画を担当した三菱鉛筆の蛇川氏

 ダイヤルバンク印は、印鑑本体に8桁の数字のダイヤルを2列並べ、数字の組み合わせで印影を変える3層構造の印鑑。ダイヤルを操作で、姓の印面の向きとその外周の模様が変化し、64通りもの印影を選択できるのだ。サイズは直径が18ミリ、長さが45ミリ。重さは76グラム。

 持ってみると、ひんやりとしたステンレス製の本体が手のひらに心地いい。ずっしりと、まではいかないがそこそこの重さもあり、質感は高い。肝心のダイヤル部分は数字を回すごとに、カッチリ嵌る感じ。回す途中の遊びはあるが、いったん数字を決めれば簡単にはズレない。実際試してみたが、少なくとも通常の使用ではズレは生じなかった。

 企画を担当した三菱鉛筆の蛇川寿史課長(営業部印章グループ)は、「カッチリ嵌らないと印影がぶれます。印影がぶれない製品にしないと銀行印として利用できないないので調整に時間を掛けました」という。


st_db04.jpg ひんやりとしたステンレス製の本体が手のひらに心地いい
st_db05.jpg カッチリと回るダイヤル

 製品化に向け、調整に時間がかかったのはこれだけではない。ダイヤルバンク印は、外周ダイヤル部分/内周ダイヤル部分/印鑑部分の3層構造になっている。この3層構造の「水平出し」と「すき間」の調整にも時間を割いた。

 「水平出し」とは、印鑑の印面を水平にすること。3層構造のダイヤルバンク印ではそれぞれ部分が回転することで印面を変化させるわけだが、3層構造のうち、どこかの部分だけでも出っ張っていれば鮮明な印影にはならない。また、3層のすき間も、印影に不自然な線やムラが出ないように試行錯誤したという。


st_db06.jpg 写真ではわかりづらいが、触っても3層構造の差がわからないほど平らだった
st_db07.jpg 蛇川氏は64通りを試してみたという

 こうした問題をクリアするために材質にこだわった。7つの部品で組み立てられているが、真鍮を1カ所で使っているほかはすべてステンレス製だ。ステンレスを採用したのは、通常の金属だと錆びて3層構造が動かなく恐れがあるためだ。プラスティックや木材を使えばコストを抑えられるが、これらの材料は温度で大きさが微妙に変化してしまうため、銀行印のようなオフィシャルな印鑑には適さないと判断した。

 印面の仕上げは手作業だ。水平出しの後に、手仕上げで細かい溝を刻む。というのも、ステンレスは必ずしもインクと馴染む素材ではないためだ。馴染みを良くするために、細かい溝を刻むのだという。

st_db08.jpg 印面に斜めの溝が加えられているのがわかるだろうか

「盗まれても利用できないようにすればいい」というアイデア

 そもそもダイヤルバンク印の開発は、「3〜4年ほど前までさかのぼる」(蛇川氏)という。当時は銀行印を偽造した事件が多発しており、印鑑メーカーとしても危機感を抱いていた。その後、銀行などの金融機関では副印を廃止し、偽造印鑑対策としてはある程度の効果を挙げた。

 偽造印鑑による不正引き出しは減少したものの、問題はまだ残っていた。蛇川氏が注目したのは「盗難にあった印鑑の不正利用」だった。とはいえ、そんな印鑑のアイデアもなく当初は企画段階で開発が止まっていたという。そんなある時、蛇川氏のチームのスタッフが「盗まれても利用できないようにすればいいのではないか」と指摘した。このアイデアを元に開発したのがダイヤルバンク印だったわけだ。

 印鑑メーカーからアプローチしたセキュリティ対策が結実したと言えるダイヤルバンク印だが2万1000円という価格や、印鑑にしては若干重い(76グラム)といった課題もある。「2万円という価格は上限ギリギリの判断でした」と蛇川氏。また、重さについて「あまり重いと本当に使ってほしい高齢の方なども使いにくくなりますよね」と話す。今後は市場の動向も踏まえるという。

 なお、ダイヤルバンク印は今のところ銀行印専用という位置づけ。実印にも利用できないわけではないが、自治体によっては条例で「変化する印面は実印として認めない」こともあるという。本来こうした条例はゴム印など経年変化する印鑑に対してのものだったが、ダイヤルバンク印にも適用される可能性があるのだ。ただし、「ダイヤルバンク印の発表以降、自治体からの問い合わせもありました」(蛇川氏)とのこと。今後の条例改正によっては、ダイヤルバンク印で実印登録ができるようになるかもしれない。

番外編:上手に印鑑を押すコツ

 最後に、蛇川氏から上手に印鑑を押すコツを伺った。IT化が進む日本でも印鑑を押す機会はまだまだ多い。ぜひ参考にしてほしい。

  1. 用意するものは印鑑と印鑑マット
  2. 印鑑のアタリを確認し、印面が上に来るようにする
  3. 深めに持ったほうが安定する
  4. 印を押す時はゆっくり。印面が紙に着いたら両手で押し付ける
  5. 大き目の印鑑の場合は、印面の端もしっかり写るようゆっくり回しながら押す
st_db09.jpg 三菱鉛筆の印鑑マット。ゴム製だと経年変化で硬化するため、ビロードのように細かい毛を植えている
st_db10.jpg ダイヤルバンク印のアタリ部分

st_db11.jpg 深めに持つと安定する
st_db12.jpg 両手で押し付けるのがポイント

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