「夫に置き去りにされたんです。でも、彼はそれに気づいてないと思います」と彼女は説明した。家庭内暴力の可能性があると疑った隊員は質問した。「喧嘩でもしたんですか? ご主人は何であなたを残して、走り去ったんでしょう?」
「夫はきっと、私が後部座席で眠っていると思ってるんです」
「ご主人は、自分の車の後ろの座席にあなたがいると思ってるんですか? いないのに気づかないなんて、妙だと思いません?」
「いえ、私が眠り込んでると思ってるんでしょう」
「あなたのお名前は?」
「サンドラ・コヴィーと言います」
長い沈黙があった。「作家のスティーブン・コヴィーさんと何か関係がおありですか? 私は、あの方のセミナーを受けたことがあるのです」
「そうそう、その人ですよ。私を置き去りにしたのは」
パトロール隊員とさらに話をしているうちに、父が携帯電話を持っていることを母が思い出し、電話をしてみた。
「コヴィーさん、こちらハイウェイ・パトロールです。車を直ちに路肩に寄せてもらえますか。そして、あなたが今いる正確な位置を教えてください」
父は、ハイウェイ・パトロールが何で自分の携帯の番号を知っているのか不思議だったが、スピード違反でもしたのかと思って答えた。「分かりました。場所はアイダホフォールズあたりかだと思いますが、さっきまで眠っていたので、正確なところは分からないんですよ。10分か15分ほど前まで運転していた妻に、今どの辺りか聞いてみますよ」
そう言って、父は後部座席の方に向かって叫んだ。「サンドラ! サンドラ! 起きなさい! ハイウェイ・パトロール隊員から電話だ。我々がいる正確な位置を知りたいらしい」
「コヴィーさん! コヴィーさん!」パトロール隊員は電話口に向かって大声で叫んだ。「奥さんはそこにはいませんよ」
「いや、妻は後ろの席で眠ってるんですよ」父は即座に答えた。「待っててください。車を脇に止めて、起こしますから」
父はそう言って車を止め、後部座席を覗き込んだ。さらに気が狂ったように毛布や枕の中を捜し始めた。だが、そこに母の姿はなかった。
「大変だ、妻がいない!」父は叫んだ。
「奥さんは私の車にいますよ」パトロール隊員が答えた。
「えっ、どうしてそっちにいるんですか?」
「ちょっと前、あなたが奥さんを道路の脇に置いて行ってしまったんですよ」
「何だって?」父は怪訝そうに言った。「妻は車に乗らなかったってことですか? えっー、そんな馬鹿な! まあ、あまり静かなんで、おかしいとは思ってたのですが」
パトロールカーはついに父を発見し、全員で事の経緯を確認しながら大笑いした。「子供たちに話しても信じてもらえそうもないな」そう父が言った。
「大した事じゃありませんよ。署のほうに連絡しますから、ちょっと待っててください。よくあることです」パトロール隊員は言った。
ここであなたに1つ質問をさせていただきたい。私の両親の一件について、あなたがその一部始終を目撃していたとしたら、父の「意図」は何だと思っただろうか。
(『スピード・オブ・トラスト』108〜112ページより抜粋)
開催概要 | |
---|---|
日程 | 1.11月5日(木)〜11月6日(金) 2.2010年2月18日(木)〜2月19日(金) |
時間 | 9時〜17時(2日間とも) |
料金 | 10万1850円 |
会場 | フランクリン・コヴィー・ジャパン セミナールーム(東京都千代田区麹町) |
「どんな状況であれ、信頼ほど即効性が期待できるものはないと断言できる。そして、世間の思い込みに反し、信頼は自分でなんとかできるものなのだ」――。
『7つの習慣』で著名なコヴィー博士の息子、スティーブン・M・R・コヴィーが、ビジネスにおける“信頼の力”を体系化したのが本書『スピード・オブ・トラスト』。
企業の不祥事や社内の権力争い、人間関係の崩壊などが問題視される昨今、新しいリーダーに求められる能力とは何なのか。私たちが行うあらゆる活動の質に働きかける信頼の力を、本書中の“名言”を抜粋しながら解説します。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.