インタビュー
» 2010年07月07日 09時00分 UPDATE

電書部の真実:電子書籍をフリマで対面販売する「電書部」が目指すものとは(前編) (1/3)

電子書籍を「電書」と呼び、フリマを通じた対面方式で販売を行っているユニークな団体が、米光一成氏率いる「電子書籍部」だ。5月の同人イベント「文学フリマ」ではわずか1日で1453冊もの電子書籍を売り上げたこの団体について、米光氏に話を聞いた。

[山口真弘,Business Media 誠]
st_yo01.jpg 米光一成氏

 KindleやiPadの登場によって電子書籍が脚光を浴びる中、これら電子書籍端末をターゲットにした新時代の出版の実践例として、ある団体が注目を集めている。大ヒットゲーム「ぷよぷよ」の作者であり立命館大学映像学部教授の米光一成(よねみつ・かずなり)氏が発起人を務める「電子書籍部」がそれだ。同氏が講師を務める宣伝会議の「編集ライター講座・プロフェッショナルライティングコース」が母体となって発足した部である。

 2010年5月に行われた、コミケの文学版ともいえる同人誌即売会「文学フリマ」では、15冊の電子書籍を投入。対面販売というユニークなスタイルで、わずか1日にして1453冊を売り上げるという快挙を成し遂げた。同部ではこの文学フリマでの成功を経て、来る7月17日には電子書籍限定の即売イベント「電書フリマ」を開催する。同部の活動について、「部長」である米光氏に話を聞いた。

電子書籍なら、自分が書いたテキストが、会った人にぱっと渡せる

誠 Biz.ID 最初に、前回(2010年5月23日)の文学フリマで、電子書籍メインで出店するに至った経緯を聞きたいのですが。

米光氏 ぼくは文学フリマの第1回と第2回に出店したんです。で、その後は出てなかったんですね。

誠 Biz.ID 先日の文学フリマが第10回ですから、かなり間が空いていることになりますね。

米光氏 ええ。紙で作って、運んで、みたいなのがけっこう大変なんですよ。それで、まあ、出なくなってた。売り切れたら近所に行ってコピーしてくるぐらいの感じだったんだけど。それでもめんどうで(笑)。

誠 Biz.ID なるほど。

米光氏 それで、Kindleが日本でも買えるってことで買ったら、すごい!  使ってみてようやく「わ、これは、世の中変わるな」って実感が出てきた。

誠 Biz.ID 文学フリマにあらためて参加されたのは、Kindleありきだったというわけですね。Kindleのどのへんがすごいと思われたんでしょう?

米光氏 めんどうじゃない(笑)

誠 Biz.ID わはは(笑)

米光氏 例えば、文学フリマに出ると仮定すると、自分がめんどうだと思った部分がほとんどなくなるなーと。(本を)たくさん作ると重い、印刷に出さないといけない、印刷に時間がかかる、どれぐらい部数が出るか予測しないといけない、あまると部屋に自分の本が山ほどたまる、そういったことがなくなる。や、それよりも、直感的に思ったのかな。あ、これって、自分が書いたテキストが、会った人にぱっと渡せる。

st_yo02.jpg 電書部で制作している電子書籍、通称「電書」はKindleのほかiPhone、iPadなどで閲覧可能

米光氏 2つの方向ですごいと思ったんです。1つは、ぱっと渡せる、すぐ手渡せるすごさ。印刷所も何も通さずに自分から相手に手渡せる。もう1つは、渡したい人に向けて渡すことも可能だと。ぱっと発表できるという意味では、ブログやWebでもいいわけですよね。アップすればすぐに読んでもらえる。でもブログを書くときって、雑誌に原稿を書くときよりもなんだかぼんやりとするところがあるんですよ。ぼんやりというか、ちょっと息を詰めて書いている感じ。それは読む人のトーンが分かりにくいから。雑誌ならその雑誌のトーンがあって、そのトーンの人が読者層であると。

誠 Biz.ID ブログだと不特定多数が相手になるから、内容を絞り込みにくい、ということですね。

米光氏 ええ。ブログやWebってそうじゃない人も読む可能性が高い。自分のブログなら自分のブログのトーンの人が読んでるけれど、リンクされたりして後から思わぬ人が読むこともある。例えばぼくのブログで「『アンチオレンジレンジ』サイトが『オレンジレンジファン』サイトになってる理由」ってのを書いたんですね。ぼくのブログのトーンを分かってる人なら誤読しないとは思うんですよ、あんまり。でもコメント欄を見てもらうと、途中から若い人のコメントがすごい勢いでつきはじめる。夏休みになって、しかもその頃人気だった「オレンジレンジ」で検索すると、どうやらぼくのブログがわりと最初のほうに出るらしくて。

誠 Biz.ID 確かに、途中から層がちがっちゃってますね。

米光氏 「米光VS中学生?コメント欄が荒れていく」にもまとめてますが、途中から、これが米光という人がやっているブログだということも分かってない中学生のコメントが連投されちゃって。炎上! このときはこれはこれで新しい体験で楽しかったのですが、まあ、思わぬところに飛び火する。

誠 Biz.ID なるほど。

米光氏 ブログでよく「これはわたし個人の意見ですが」とか、エクスキューズをつけているのを見るし、ぼくもつけてしまうことがあるんですが、それだと書く自由さが少し削がれてしまう。そういうふうに誰もが読む前提で書きたい文章もあるけど、そうじゃない文章もある。トーンが伝わることを前提に書きたいこともある。

誠 Biz.ID こういう展開が前提だと、最初にエントリを書く段階からいろいろ配慮しなくちゃいけなくなってきますよね。

米光氏 「あいつ莫迦だよなあ」っていうのが、悪口じゃなくて親愛の情であることが、遠慮せずに書いて伝わるときの書き方と、そうじゃない人も読む可能性があることに怯えて「あいつ莫迦だよなあ(もちろんほめ言葉)」ってカッコをつけて注釈しないといけない書き方だと、内容や伝えることすらも変わらざるをえない。めんどうなだけならいいけど、その注釈のせいでコミュニティの一体感が削がれてしまう。オフ会で親密な話をしようとしている場が、見知らぬ人にのぞきこまれているような気を使う場に変わってしまう。そう考えると、新しい選択肢としての電書ってすごいな、と。

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