上場は考えず、非正規雇用全廃。牧場経営へ――異端のIT企業家、リンク岡田元治社長に聞く時代の変化に合った働き方(3/3 ページ)

» 2013年09月27日 08時20分 公開
[Business Media 誠]
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株式は公開せず、上場にも関心はない

――株式は公開せず、ITバブルのころにブームとなった上場にも全く関心を示されませんでした。

岡田 上場するということは他人のお金と主導権を会社に入れるってことですからね。彼らには社員の人生を背負うという義務感もない。極端な話、投資した翌年に株を売って投資額を倍にできればいいんです。私は会社を、そこに参加している人間の田畑と捉えています。日々の糧を生んでくれる大切な集合体を小口に分けて売ってはダメでしょう。

 若い人は「上場しないなんて、非正規雇用を否定するなんて」と驚くかもしれない。でも私たちの世代からすればそれがむしろ当たり前なんです。

 酪農事業を苦労しながらやって3年、あらためて感じているのは、日本に限らず、現代のビジネスは、いや、考えてみれば昔からそうだったのかも知れないのですが、とにかくビッグビジネスは「不幸にした人間の頭数×その業界の客単価」と言うことができるのはないでしょうか。戦争を巡るビジネス、ギャンブルと化した金融、薬品・医療、射幸心を刺激して時間を浪費させるゲームなど、多くがその原理に沿って突き動かされるかのように突っ走っているわけです。

 当社自体、サーバの提供という形でその一角に存在しています。従ってじくじたる思いは当然あるわけですが、給料の支払い責任もあって単純に否定することもできません。元CIA職員、スノーデン氏の事件で顕在化したクラウドによる情報の米国一極集中も危険なことだと考えていました。

 他人のお金を大きく入れて勝ち続けることを目的にしてビジネスを成長させるということは、批判精神を捨ててそうした方向に突き進まざるを得ないということなんです。

――なるほど、よく分かりました。共感を覚える人も多いと思うのですが、残念ながら岡田さんの取り組みは全体から見ると少数派です。どうすれば支持者や仲間が増える、とお考えでしょうか?

岡田  どの会社も食べていかないといけないし、給料を払わないといけないので、簡単に仲間が増えるとは思いません。しかし社会の重要な構成要素である「会社」と、さらにその構成員である「個人」や「家庭」のことを「会社」として考える時期に来ているんじゃないかとは思います。そうすると、そのすぐ先には個人や家庭が拠って立つ「食」や「水と木と土から成る国土」に考えが及びます。危険な食の問題、雨で崩れつづける国土など、都市であれ地方であれ、食や国土と無縁の企業は存在しないわけですから。特に命をつなぐ存在である女性には、いい食と土を提供しないといけないと思います。

 そうした事業にこそ、多くの企業が参加してほしい。自分や家族の未来を思うのであれば、命を育む食の問題、食に直結する農業の問題、その環境をさらに揺るがそうとしているTPPの本質などに企業人としてしっかり目を向けてほしいですね。

 私が酪農事業に「研究所」という名前を付けたのは、そうした思いからです。どんなに素晴らしい農業であっても、農業者単独では年間1000〜2000万程度の赤字にも耐えられません。しかし健全に運営されている企業なら、軌道に乗るまでのそのぐらいの赤字には耐えられます。

 だから、もっと規模の大きくて十分もうけている会社にこそ、国の食と人々の健康を守る覚悟を持ってこの課題に取り組んでほしいと願っています。都市で働く私たち、そして私たちが働く都市の企業は、言うまでもなく直接・間接に地方の恩恵を受けているのですから。その危機から目を背けてはいけないと思っています。

 正規雇用を守ること、子育てを支援することなど、ずっと「当たり前のこと」をやってきたという自負はあります。当たり前だからこそ難しい訳ですが、そこに拘れば、自然に、シンプルに「やるべきこと」が見えて来るはずです。

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