上司の背中を見たら人は育つのか?上司はツラいよ(2/2 ページ)

» 2015年03月05日 10時00分 公開
[田中淳子,Business Media 誠]
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 大人の成長には「70:20:10」のルールがあるという(米ロミンガーの調査「優れたリーダーの経験」より)。「自身が直接経験したこと」から学ぶ割合が7割で、「他者の観察や他者からのアドバイス」からが2割、「本を読んだり研修を受けたりすること」からが1割という内訳だ。

 これを実際の仕事のシーンに置きかえてみるとどうなるか。“クライアントとの打ち合わせを上手く進行し、互いに納得できる好条件で契約を交わす”という場面を例にすると、交渉術やファシリテーションの研修を受けたり、本を読んだりして学ぶ部分が1割、上司が交渉しているところを脇で見たり、「こんな風に交渉を進めれば取引先に納得してもらえる」などとアドバイスを受けたりすることからの学びが2割だ。

 そして学びの大半である7割は「自分が交渉のテーブルにつく」ことから得られる。メインの担当者として交渉を仕切り、取引先にムッとされたり、社内からあれこれ突き上げをくらったり、説得力のあるプレゼン資料の作り方に悩んだりしながらも何とか契約をうまくまとめあげた時、最も成長するというわけだ。

 こう聞けば、「経験から学ぶ」のは、何も目新しいことはないと肌感覚で納得できるだろう。

重要なのは“上質な経験を積ませる”こと

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 ただ、“経験からの学び”を「ほぉ、経験させればいいわけね」と考えるのは短絡的だ。単に場数を踏ませればいい、というものではない。大切なのは「成長につながる良質な経験」を積ませることだ。例えば、ハードな交渉であっても「多くの学びにつながる経験が積める」なら、そうした意図も含めて部下に伝えることが重要だろう。

 とはいえ、上司がいつでも良質な経験につながる仕事を与えられるとは限らない。そんな時は、「与える経験」に「意味づけ」をすることも重要だ。「この仕事を通じて、“社外も巻き込んだリーダーシップの取り方”を体験できるはず。それを意識して取り組んでほしい」と、ひと言付け加えるだけで、単調と思えるような仕事が学びに変わるだろう。

 さらに、経験は「ふりかえる」ことによって、より深い“学び“や“成長”につながる。上司がふりかえりを支援するときには、「次は○○に気をつければいいよ」とアドバイスするのではなく、本人に考えさせることがポイントだ。

「どんな経験をしたのか?」

「その経験から何を学んだのか?」

「その経験から得られた教訓は何か?」

「成功したら、次もその成功を生かすには何をするか?」

「失敗したら、次は失敗しないためにどんな手を打つか?」

 ――こう問いかけ、考えさせていく。

 質問されれば人は考え始める。そうやって経験したことから学びを引き出し、部下の能力向上に結びつけるのが上司の役割なのだ。

著者プロフィール:田中淳子

田中淳子

 グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー。

 1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタル イクイップメントを経て、96年より現職。IT業界をはじめさまざまな業界の新入社員から管理職層まで延べ3万人以上の人材育成に携わり27年。2003年からは特に企業のOJT制度支援に注力している。日経BP社「日経ITプロフェッショナル」「日経SYSTEMS」「日経コンピュータ」「ITpro」などで、若手育成やコミュニケーションに関するコラムを約10年間連載。


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