「小さな大企業」を作り上げた町工場のスゴい人たち

安売りをしない「大人ランドセル」が、海外セレブを虜にする理由スピン経済の歩き方(1/7 ページ)

» 2016年03月08日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

スピン経済の歩き方:

 日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。

 「情報操作」というと日本ではネガティブなイメージが強いが、ビジネスにおいて自社の商品やサービスの優位性を顧客や社会に伝えるのは当然だ。裏を返せばヒットしている商品や成功している企業は「スピン」がうまく機能をしている、と言えるのかもしれない。

 そこで、本連載では私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」を紐解いていきたい。


 少し前、朝の情報番組で「日本のランドセル」が海外でファッションアイテムとして人気を博しているという話題が報じられていた。

 『ドラえもん』などアニメの影響で、中国や台湾ではかなり以前からランドセルは人気で、量販店でも「爆買い」の対象にもなっているが、それらはあくまで子供用。おしゃれなパリジャンが肩にかけて街を闊歩していたり、背負って自転車通勤をしたりという目新しさのせいか、かなり長めの尺だったと記憶している。

 「ランドセルをいまだに子供のモノだと思っているのは日本人だけ」なんて海外のファンの声をVTRで紹介した後、スタジオでは「人気の秘密」を解説した。

 それによれば、2014年3月、ハリウッド女優のズーイー・デシャネルさんが赤いランドセルを肩にかけて歩く姿がパパラッチされ、その写真が世界中に配信されたことで、「ランドセル=おしゃれ」というのが広まったらしい。加えて、増加する外国人観光客が、登下校する日本の小学生の姿をおさめた写真をネットで紹介したことで、日本の「Cawaii」のひとつとして注目を集めているんだとか。

 これ見ていて、「そうなんだろうなあ」と納得した半面、この解説だけでは、視聴者が今の世界的な「大人ランドセルブーム」について誤った認識を抱いてしまうのではないかと不安になった。

 実はズーイー・デシャネルさんがランドセルを背負う数年前から、欧米のファッション関係者の間で「日本のランドセル」は注目を集めており、現地メディアでも大きく取り上げられている。それは、ある日本メーカーの存在によるところが大きい。

 そのメーカーとは、東京・足立区にある「大峽製鞄」。昭和10年(1935年)創業の老舗鞄メーカーで、天皇陛下の革製薬箱や愛子様のランドセルもつくっているほか、40年以上前から学習院初等科のランドセルをつくっていることで有名だ。

 ちなみに、現在、日本中の子供たちが使用しているランドセルのルーツは学習院。明治期に侍者(じしゃ)に荷物を持たせて登校している良家の子供たちの姿を見て、学習院の幹部が「自分のモノは自分で持つ」ことも教育だとして、欧州の軍用鞄をモデルに生み出したとされている。

欧米のファッション関係者の間で「日本のランドセル」が注目されている(出典:大峽製鞄)
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