好調の理由について成田氏は「当ホテルは宿泊客の約6割がリピーターの方ですが、ここまでリピーターにご利用いただけるのは、お客さまの不満に徹底して向き合ったからだと考えています」と説明する。
例えば細かな点では、ハブラシの形を戻したことにある。歯科医師の助言で磨き残しがないよう、持つ柄の部分が曲線上のハブラシを採用したが、「磨く時に液だれがして嫌だ」という利用客の声を受けて、柄が直線のものに戻したのだ。過去には部屋の消臭剤をメーカーと共同開発したこともあり、利用客の細かいストレスを軽減することに徹底している。
筆者も名古屋出張で同ホテルに宿泊したが、同価格帯の競合ホテルでは通常、エレベーターの前に数台置かれているズボンプレッサーが部屋に常備されていた。また、朝食時のコーヒーの横には紙コップが置かれ、テイクアウトできるようにしている。
近年のビジネスホテルは、各社が独自の特色を打ち出している。例えば「朝食の内容」や「大浴場」だが、同ホテルは前者の朝食ビュッフェに注力してきた。
「北海道から沖縄まで直営で36店舗ありますが、全て食事内容は違います。例えば山形では山菜そばや芋煮、名古屋は味噌カツや天むす、大阪ではバッテラすしやたこ焼き、長崎では皿うどんや地元で獲れたアジのみりん干しなどもそろえています。郷土色を強めて『その土地ならではの食を味わいたい』というご要望にお応えしてきました」(同)
実は同ホテルは、ファミリーレストランの「ロイヤルホスト」や「シズラー」を展開するロイヤルホールディングスの子会社だ。羽田や成田、関西、福岡など国内の主要空港にレストランも構えるグループの食材調達力や調理技術が、同ホテルの味覚を支えている。
ロイヤル創業者の江頭匡一氏(故人)は終戦直後、米軍基地でコック見習いをした後に起業した。その後、黎明期だった日本航空の機内食や空港内レストランに進出して実績を積み、同グループを築き上げた。戦勝国・米国の豊かさの象徴だったレストランを日本に浸透させた江頭氏の経営哲学「憧れだったものを手の届く価格で実現」が、同ホテルにも反映されている。成田氏も若い頃は江頭氏の哲学を学んだという。
宿泊客の不満解消といえば、同ホテルにはこんなサービスもある。
「翌朝の出発が早いなどの理由で朝食が利用できないお客さまには、朝食券をホテル特製フルーツケーキに交換しています。非常に好評で年間3万個以上も出ています」(同)レストラン事業を持つグループらしいサービスが、顧客満足につながっている。
一方、「大浴場」は設置していない。競合ホテルのドーミーインや三井ガーデンホテルズが大浴場を完備して利用客に訴求するのとは対照的だ。
「そうしたニーズがあるのも承知していますが、女性客の中には、『大浴場で会社の同僚と会いたくない』『風呂上りで浴衣姿の人とエレベーターで乗り合わせるのも嫌』といった声も耳にします。浴場設置に踏み切った場合は、現在の宿泊料金の値上げにつながりかねないので、全体の設備投資と料金とのバランスで考えています」(同)
筆者の周囲では「同価格帯なら大浴場つきを選ぶ」人が多いが、楽天トラベルの「出張に関するアンケート調査」(2015年1月発表)によれば、ホテル選びの1位は「価格」、2位は「立地」、3位は「朝食の質・量」の順で、「大浴場の有無」は8位だった。
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