鋳造メーカーの炊飯器は何が違うのか 舞台裏に迫るあの会社のこの商品(1/4 ページ)

» 2017年06月26日 08時00分 公開
[大澤裕司ITmedia]

あの会社のこの商品:

 企業は時間、コスト、労力をかけて商品を開発するが、ヒットし成功を収めることができるのはごく一部。しかも、ヒットしても注目されるのは、大手企業各社の主力事業・商品ではないだろうか。それ以外のヒット商品――(1)中堅・中小企業、ベンチャー企業が生み出したもの、(2)地域限定のもの、(3)大手企業でも主力事業・商品に隠れて目立たないものは、なかなか注目されにくく、「知る人ぞ知る」といった感が否めない。そこで本連載では、これら3つのヒット商品にスポットを当て、誕生の裏側から見えたヒットの理由と今後の事業展開などを明らかにしていきたい。


 素材本来の味を引き出す鍋として評価の高い、愛知ドビーの鋳物ホーロー鍋「バーミキュラ」。これまでに累計25万個以上も売れているが、2016年12月、同社はバーミキュラを生かした究極の炊飯器「バーミキュラ ライスポット」(7万9800円、税別)を発売した。

 バーミキュラ ライスポットは、専用のバーミキュラと専用のポットヒーターで構成。鍋炊きのおいしさはそのままに、火加減調整を不要にした。オリジナリティーの高い見た目もさることながら、保温機能の省略や、炊飯だけでなくさまざまな調理にも対応しているなど、既存の炊飯器とは違う機能性も目を引く。

 しかし同社にとって家電は専門外。家電への進出には何があったのだろうか? 今後、家電事業を強化していくのだろうか?

大ヒット中の鋳物ホーロー鍋「バーミキュラ」を生かした、愛知ドビーの炊飯器「バーミキュラ ライスポット」

火加減の難しいご飯も簡単においしく炊ける究極の調理器をつくる

 バーミキュラ ライスポット誕生の発端は2013年にさかのぼる。当時、バーミキュラはすでにヒットしていたが、火加減にコツがいることから、料理の得意な人でないと使いこなすのが難しいというイメージができつつあることが課題となっていた。

 「そこで、料理が得意な人たちだけでなく、苦手な人やトップシェフと呼ばれる人たちにも楽しんでもらえる製品をつくることにしました。そのとき、バーミキュラに最適な火加減を自動化して提供すれば、失敗せずに、そして想像を超えた味が出せる究極の調理器ができると考えたのです」

 このように話すのは、開発を担当した代表取締役副社長の土方智晴氏。火加減の自動化については、欧米でバーミキュラを紹介した際、火加減を教えることが難しく、憶えてくれようとしてくれなかったこともきっかけになった。つまり、火加減の自動化は海外にバーミキュラを広げる上で、不可欠な要素だったのだ。

開発を担当した愛知ドビーの土方智晴氏

 では、なぜ炊飯機能を持たせることにしたのか。それは、日本人が考える最も火加減が難しい調理が、炊飯だからである。ご飯こそ、火加減の自動化を強く印象付ける料理であり、おいしいご飯を炊くことは世界最高の調理器をうたうために乗り越えなければならない壁だった。

 それに、バーミキュラで炊いたご飯の味に自信もあった。バーミキュラで炊いたご飯と家電メーカー各社から発売されていた最高級炊飯器で炊いたご飯を社内でブラインドテストをしたところ、バーミキュラで炊いたご飯のほうがおいしいという結果が出た。家電メーカーを超えるものができれば、バーミキュラの性能や良さを評価してもらえるという確信があった。

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