ソルティライチが“変えたこと”と“変えないこと”「世界のKitchenから」10年の歩み(1/3 ページ)

» 2017年07月10日 11時00分 公開
[青柳美帆子ITmedia]

 2007年に立ち上がったキリンビバレッジの「世界のKitchenから」は、入れ替わりの激しい飲料業界の中で、10年存続する強力なブランドだ。第1弾の「ピール漬けハチミツレモン」を発売してから5年、約8倍に急拡大し、現在の累計販売数量は4545万箱(換算)を突破した。

 シリーズのコンセプトは「手作りを生かした、とびきりおいしいものを作ること」。海外の家庭に取材に行き、家庭料理からアイデアを得た商品を、素材や調理方法にこだわって製造している。

 ブランド立ち上げ期の07〜08年には、チルドカップを含めて1年間で10個近くの新商品を出したことも。08年発売の「とろとろ桃のフルーニュ」などヒット商品も出ていたが、実はブランド全体としては伸び悩んでいた時期だった。

 「甘いドリンクを数多く展開していたので、『デザート系のブランド』という認識を抱いているお客さまが多かった。エンターテインメント性は強いけれど、日常の中には入ることができなかった。そのため、認知度は上がっていても、数としては伸びなかったんです」

 そう語るのは、キリンビバレッジ マーケティング部の商品担当主任図子久美子さん。そんな“難しい時代”を切り開いたのは、11年発売の「ソルティライチ」だ。

キリンビバレッジ マーケティング部の商品担当主任図子久美子さんに、「世界のKitchenから」シリーズの歩みを聞く

「『沖縄海塩』と『ライチ』で、渇いたからだにおいしく塩分補給できる“夏対策”飲料」――キャッチコピーで登場したソルティライチ。11年夏には“塩入りドリンク”が数多く発売されたが、ソルティライチはその中でもとびぬけたヒット商品に。「世界のKitchenからといえばソルティライチ」――というように、この1本の商品がブランド認知度をぐっと上げたのだ。

 ソルティライチはどういった背景のもとで生まれ、ヒットしたのか。10年間でブランドはどのように変化したのか? 世界のKitchenからシリーズの10年間の歩みを図子さんに聞いた。

大ヒットの裏側にある“日本の変化”

 なぜソルティライチは爆発的にヒットしたのか――。その背景には、当時の“大変化”がある。

 発売前年の10年は、歴史的な猛暑の年。日本の各所で観測史上最高気温が記録され、気象庁が「30年に一度の異常気象」と発表したほどだった。熱中症に関するニュースが今までになく報じられ、患者数や死亡者数は過去最悪となった。

 翌11年、3月に東日本大震災が発生。節電意識が高まった結果、暑くなってもエアコンをつけないなど、熱中症の患者数はさらに増加。日本の夏の過酷さが増し、「熱中症対策」が真剣に必要とされるようになったタイミングで、ソルティライチは登場した。

 「熱中症に対する意識が『自分ごと』になっていた。世の中に大きな流れがあり、人々の暮らしが変わろうとしていました。熱中症対策は、生理食塩水でも成り立つんです。でも、おいしさと素材感があるもので、おいしく熱中症対策をし、いい夏にするドリンクを作りたい――ということを目指して開発しました」(以下、図子さん)

 もともと、キリンビバレッジはシリーズ初の塩入り飲料「ソルティライム」を10年に発売。ファンから「復活してほしい」といった声が寄せられたことで、塩とライチの新商品が生まれた。熱中症対策を求める世の中のニーズにぴたりとはまり、発売1カ月で年間販売目標の45万ケースを達成する大ヒットに。こうした経緯があって、「夏と言えばソルティライチ」といったイメージを持たれるまでになったのだ。

「世界のKitchenから」シリーズは、「ソルティライチ」を機に認知度を一気に拡大した
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