島原鉄道の事業再生支援が決定 地域再生の総力戦が始まる:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/4 ページ)
地域経済活性化支援機構の報道資料によると、島原鉄道の支援決定の理由は以下の通り。
- 島原半島地域には他に代替する主要な公共交通機関がない
- 島原鉄道と同社のバスは地域住民の生活にとって重要で、高齢者や通学利用者等にとって不可欠ともいえる存在
- 約300人を雇用するなど、地域雇用においても重要な役割を果たす
- 支援によって長崎県島原半島を中心とした地域経済活性化の意義が認められる
どれもうなずける項目ばかりだ。これらを地元自治体も地元の銀行も認めてきたからこそ、島原鉄道は存続できた。ちなみに島原鉄道の財務状況は17年3月期で売上高約18億円、経常損益は約2億5000万円の赤字、純損益は約1300万円の赤字、総資産は約91億円だ。赤字は良くないが、それほど多くない。一定の収益力はある。ただし、黒字転換は難しい。膨れ上がった累積債務がちっとも減らないからだ。らちが明かないとはまさにこのこと。
島原鉄道の環境は悪い話だけではない。相変わらず軌間でもめているとはいえ、いずれ長崎新幹線が開業する。西日本鉄道が天神から大牟田まで観光列車を企画している。大牟田と島原は島原鉄道が高速船を運行していた。島原鉄道は合理化のため撤退しているけれど、観光船を運航する、やまさ海運が航路を引き継いでいる。
島原鉄道は、島原半島の口之津港と天草の鬼池港を結ぶ島鉄フェリーは維持しており、天草はJR九州の観光列車「A列車で行こう」と天草宝島ラインが連携して観光を盛り上げている。島原と天草は島原の乱で縁が深い。福岡〜天草〜島原〜長崎という観光ルートの開発も期待できる。累積債務を抱えた交通事業者とって、こうしたチャンスが目の前にあっても、新たなビジネスに踏み出せない。起死回生のチャンスを失う。
島原半島には観光回遊ルートとしてのビジネスチャンスがある(国土地理院地図を加工)
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