郷愁だけで鉄道を残せない しかし、鉄道がなくても郷愁は残せる杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/4 ページ)

» 2017年10月06日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

 日本のほぼ全ての鉄道路線を乗り歩いた。災害被害の報道に触れるたびに、その路線の様子が思い浮かぶようになった。台風が近づいているという予報を見たり、雨雲レーダーで日本列島に赤い雨雲が表示されたりするたびに、その地域の鉄道の行く末を心配する。

 7月の九州北部豪雨で、久大本線の善通寺駅〜日田駅間、湯布院駅〜向之原駅間、日田彦山線の添田駅〜夜明駅間が不通になった。現在、久大本線は光岡駅〜日田駅間が不通のまま。日田彦山線も添田駅〜夜明駅間が不通のまま。どちらもバス代行となっている。

photo 地域に鉄道があると郷愁を誘うが……(写真と本文は関係ありません)

 大分県日田市、夜明駅。久大本線と日田彦山線が接続する駅だ。私の初訪問は1984年9月26日。高校生だった。アルバイトでお金をためて、九州ワイド周遊券でローカル線を巡る旅をした。「夜明け」とは、なんてロマンチックな駅名だろうと思った。ただし地名の由来は日の出ではなく、焼き畑農業の夜焼(よやき)だという。それにしても、夜焼を夜明に変えた発想がいい。

 夜明駅の駅舎を出ると下へ向かう階段があり、片側1車線の国道がある。その向こう側に夜明ダムが横たわっている。初秋の午後、水面は青空を映し輝いていた。しばらく佇んで、列車で引き返すため駅舎に戻る。プラットホームに花壇と植木が小さな庭園風に整えられていた。初老の駅員さんが、いや、駅長だったかな。庭の手入れをしながら話し相手になってくれた。「主な仕事はこっちさ」と笑っていた。

 夜明駅はその後、無人駅になった。あの庭はどうなっただろう。そんなことをぼんやりと思い出した。

photo 久大本線と日田彦山線、現在の不通区間を赤で示した(国土地理院地図を加工)
       1|2|3|4 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.