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お金なし、知名度なし、人気生物なし 三重苦の弱小水族館に大行列ができるワケ来場者12万人から40万人へ「V字回復」(3/4 ページ)

» 2018年06月08日 07時30分 公開
[大宮冬洋ITmedia]

「やりたくない」ことをやるのが仕事

 しかし、多くの客を集められる起爆剤となるような企画は他にない。できるだけ予算をかけずに特色を出す方法として注目したのが深海魚だった。蒲郡市の漁港は深海魚漁が盛んで、竹島水族館は漁師との協力関係がある。他の水族館では希少すぎてタッチングプールには出せないような深海魚が豊富なのだ。

phot V字回復の起爆剤となった「さわりんぷーる」。擬岩を減らすなどのコストカットを経て実現した

 「タカアシガニやイガグリガニを気軽に触ることができる水族館は日本でうちだけです」。勝負時だと感じた小林さんは「年間の入館者が16万人を割ったらスタッフ全員がぼうずになります」と公言。水族館らしからぬノリで、評判を集めた。そして、見事に20万人突破を達成したのだ。

 さわりんぷーるの成功で肌身に染みて分かったことがある。「魚マニアの自分たちがやりたいことではなく、普通のお客さんが求めているものを作っていく」ことの重要性だ。客の意見を取り入れるには、館内の客を「観察」するしかない。現在、竹島水族館のスタッフは、自分が担当する水槽の近くにじっと立っていることがある。「何人が立ち止まっていて、何分間ぐらい見てくれたか。一緒に来た人とどんな話をしていたか」を調べているのだ。

 「200人のお客さんにアンケートを取ったこともあります。その結果、魚の研究目的の人は1人しかいませんでした。フグの調理師免許を取るためにフグの勉強をしに来たそうです。他の人たちはなんとなく遊びに来ているんです。ただし、うちで楽しく過ごした後に魚をもっと知りたくなり、ネットで詳しく調べたという声は聞きます」

 魚を専門的に学ぶのではなく、魚に興味を持つきっかけを提供できる水族館を作ればきっとうまくいく――。直感は確信に変わり、15年には館長に就任した小林さんは「ギア」を上げて猛進している。深海魚が多いことぐらいしか特色のない竹島水族館は、「お客さんに楽しんでもらう」ことに向かってスタッフ全員が切磋琢磨するしか活路はないのだ。

 「動物園も同じですが、水族館に就職する人は、できればずっとバックヤードで生き物の世話をしていたいんです。接客は得意じゃない。着ぐるみを着て解説なんてやりたくない。でも、魚だけ見ていてはお客さんからお金をもらえません。単に魚が好きで飼育がしたいならもっと給料が高い仕事に就いて家で好きな魚を飼え、と若手には指導しています」

phot オオグソクムシ入りの煎餅、カピバラの糞に見立てたチョコ菓子など、奇抜な発想で人気のお土産コーナー。グッズの売り上げは全体売上高の2割に達する

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