フォン・ブラウンは、地球連邦に比べて圧倒的に弱いと目されていたジオンに占領された。アナハイムにはそのトラウマがある。
1年戦争後の生き残り戦略を2つの視点から整理するとアナハイムの行動が分かりやすくなる。「ガンダム神話の利用」と「政治工作」である。「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」では、1年戦争開戦には間に合わなかったが、アムロの乗るガンダムの開発にはアナハイムが深く関与していた。
そのガンダムが、1機でジオン軍のMSを100機以上撃墜するという偉業を成し遂げる。MS開発で遅れていたアナハイムの技術が、実は優れていたとアピールするには最高のきっかけだった。ガンダム神話の誕生である。
もちろん、アムロの才能があってのことだが、逆転の発想で、パイロットの能力を最大限に発揮できるMS開発に注力していく。ガンダムNT-1/アレックス、Zガンダム、ZZガンダム、νガンダム、ユニコーンガンダムと最新鋭ガンダムを作り続け、ガンダム神話の創造・強化にアナハイム自身が関与した。MS開発のためには、地球連邦に敵対する勢力との技術提携にも手を染めた。
軍事産業は独占的な状態になりやすい。軍とのコネクションが必須ということもあるが、経済学的な視点では、大規模な研究開発や特殊な生産設備が必要になるため参入障壁が高い。研究開発費や生産設備は固定費になるので、生産量が増えれば、平均コストが下がるという規模の経済が働くことになる。そして、平均コストの低い企業ほど利潤が増すので、新たな研究開発に投下できる資金が増えることになる。
地球連邦にはアナハイムに嫌悪感を抱く者も多かったと思われるが、軍の予算という点で考えると、ガンダムシリーズの技術開発成果を量産機に反映させることで、安くて質の良い兵器が大量に手に入ることになる。これはアナハイムにしかできない方法である。ガンダムという機体の成果をジムという量産機の技術に反映させるという、1年戦争で生まれた方式をビジネスモデルとして確立したのである。
軍は、より良い武器をより多く欲しがるぜい沢な組織である。限られた予算の中でより多く手に入るのであれば、軍としては願ったりかなったりで、個人的な感情はともかく、組織としてアナハイムを切ることはできなくなる。
ガンダムに詳しくない方に、「ガンダムは何で同じような顔なのか?」と問われたことがある。「顔が全く違ったら同じアニメだと思ってもらえない」などという大人の事情ではなく、アナハイムがガンダム神話を演出するためのブランド戦略だったのである。
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