公共交通が示す「ドアtoドア」の未来 鉄道はMaaSの軸になれるのか杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/6 ページ)

» 2019年01月18日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

 MaaSはこの文書が発表される2年前、14年にフィンランドで誕生した。技術庁と運輸通信省が連携して次世代交通サービスの在り方を検討し始めて、ここでMaaSという言葉が出てくる。そして16年にMaaSの具現化として「Whim(ウィム)」という名前でサービスを開始した。定額料金でポイントを購入し、アプリで目的地を指定すると、移動経路が表示され、使用する交通手段によってポイントを消費する。

 現金からポイントへ、という手順が面倒に思えるし、各交通手段の価格が把握しづらいという不安もある。しかし、各社が運賃を臨機応変に変動し、それを反映させるためには、ポイント制の方が混乱しないで済むかもしれない。ポイントバックなどの利用推進策も各社で足並みをそろえられる。

 「Whim」は電車、バスの他、タクシーやレンタサイクルも網羅し、予約手続きも自動的に行う。説明は面倒だけど、使ってみたら便利だよ、というサービスだ。

 日本の既存サービスでイメージすると、乗り換え検索アプリで目的地を指定すれば、電車やバスの乗り換えルートが分かり、駅に着くと予約済みのタクシーが待っている。観光地に着くと、そこで周遊するためのレンタサイクルも確保されている。しかも最初に経路を選択した時点で決済が完了しているため、手続きはスマートフォンのWalletシステムやアプリに表示されたQRコードをかざすだけだ。

photo 小田急電鉄が8月に実施した「自動運転バスの実証実験」では、MaaSのトライアルとして乗り換えアプリからバスの予約ができるシステムを運用した(出典:小田急電鉄ニュースリリース「自動運転バスの実証実験にあわせてMaaSトライアルを実施」)

 WhimのスタートとJR東日本の「技術革新中長期ビジョン」はともに16年。JR東日本の策定作業開始は13年というから、フィンランドとほぼ同時期である。公共交通を統合し、マイカー以外の方法でドアtoドアを実現しようとした。MaaSという言葉が出てくる1年前だ。そして「技術革新中長期ビジョン」にMaaSという単語は出てこない。MaaSは学術用語のような扱いで、一般に浸透する言葉としては説明が必要だからだ。慎重に扱わないと、「Web2.0」や「ユビキタス」のような死語になってしまう。

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