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余命1年を宣告され単身渡米 がんを乗り越え「2度の世界女王」に輝いたバックギャモン選手「泣いてる時間を努力に変えよう」(1/5 ページ)

» 2019年01月28日 07時30分 公開
[今野大一ITmedia]

 人生は時にすごろくに似ている。振ったサイコロの目はコントロールできない。勝負の世界では、結果と努力してきた量とは必ずしも一致しない。勝つのか負けるのか――。結果だけが求められる「ガチンコの世界」だ。

 そんな厳しい勝負の世界をしたたかに生き抜いている女性がいる。欧米や中東など世界の競技人口は3億人ともいわれている人気ゲーム「バックギャモン」で2度の世界チャンピオンに輝いた矢澤亜希子さん(38歳)だ。矢澤さんはアジア人女性として初めてバックギャモンの世界一になり、昨年はその年のMVPに当たる「インターナショナル・プレイヤー・オブ・ジ・イヤー」にも選ばれた。

 その道のりは非常に険しかった。プロとして活躍中に「ステージIIIc」の子宮体がんが判明。医師に「手術しなければ1年もたない」と余命を宣告された。結婚して子どもを産む――。女性として描いていた将来の夢はついえることになる。悩んだ末に子宮、卵巣、卵管、リンパ節を切除。その後、抗がん剤投与を受けながら、医師の反対を押し切り2013年冬に単身渡米。武者修行の末に14年、アジア人女性初のバックギャモン世界一に輝いたのだ。

 矢澤さんを突き動かすものは何なのか。生死のはざまで何を学んだのか。その舞台裏に迫る。

phot 矢澤亜希子(やざわ あきこ) プロバックギャモンプレイヤー。1980年東京都目黒区生まれ。明治学院大学法学部卒業。2012年に子宮体がんで余命1年と宣告されるも、14年にアジア人女性として初めて世界選手権チャンピオンに輝く。18年に2度目の世界王座に

賞金総額1億円の大会もあるバックギャモン

 バックギャモンは「西洋すごろく」ともいわれている。自分のコマをいかに早くゴールさせるかを競うゲームだ。2個のサイコロを振り、出た目に従って自分の15個のコマを動かしていくが、その中で相手の進行を妨害することもできる。だから偶然の要素が勝負の決め手となる一般的な「すごろく」とは違い、自分と相手の次の手を読まなければならない戦略的なゲームだ。運だけではなく、実力が物をいう。

 日本ではそれほど知られていないものの、世界的にはチェス、トランプ、ドミノと並び世界4大ゲームといわれていて、賞金総額が1億円を超える大会もあるのだ。

 矢澤さんとバックギャモンとの出会いは明治学院大学法学部に在籍していた01年にさかのぼる。3年生のときに旅行先のエジプトで街中のカフェに入ると、必ず不思議なボードが1台ずつ置いてあった。ボードを取り囲み、男たちが夢中でゲームに興じている。それがバックギャモンだった。「こんなに国民に浸透し、広く親しまれているのか」と思ったが、そのときは、プレイ自体はしなかった。

 帰国後、ルールを調べてネット上で遊んでみた。購入したWindowsのPCにはバックギャモンのゲームソフトが入っていたのだ。周りでやっている人がいなかったので、ネットで上級者の試合を観戦した。

 「勝率の高いプレイヤーの対戦をひたすら見て研究していました。どういう動きをしているのかを参考にしていたのです。でも、『本当にそれが正しいのか』が分からない。だから正解の手が分かる4万円の解析ソフトを買ったのです」(矢澤さん)

phot トルコ風装飾のバックギャモンテーブルは3万円代(以下、写真は本人提供)
phot 江戸時代に禁止令が出されるまでは将棋(左)、囲碁(真ん中)に並んでバックギャモン(右)が日本でも楽しまれていた
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