さて、前編で書いた通り、EVの正しい利用法は、自宅の充電設備で夜間に時間を掛けて通常充電し、航続距離の範囲内で使うことだ。急速充電はバッテリーを傷めるし、現在の急速充電の料金体系は自宅での通常充電とのコスト差がありすぎる。つまり出先での充電(経路充電)はできる限り回避する使い方をするのが正しい。
ならば、経路充電の利用者は限られてくる。インフラとして重要であるにもかかわらず、設備投資のコストを回収するのは非常に難しい。仮に安全の問題が解決したとしても、ガソリンスタンドに充電器を置くようなやり方では利益面からみて事業が継続できない。
テスラでは自社で充電器を設置運営する方法を採っているが、これも悩ましい。実質的にテスラが設置・運用赤字を飲み込んで自社製品の普及のために拡充する充電器を、他社のクルマにタダ乗りされては困る。だからテスラの充電器は他社のクルマには使えない。
つまりこの方式だと、メーカーの数だけ充電アダプターや規格が異なる充電器をバラバラに普及させなくてはならない。しかももしメーカーが倒産したりEVから撤退したりするようなことになれば、充電設備がなくなるかもしれない。倒産や撤退でこそないが、一例として日産は19年末、「急速充電使い放題」のプランを廃止した。ユーザーはこうした状況が起きても、言いなりになるしかない。
充電インフラの設置・普及と運営を誰がやればいいのか? そこが解決しない限り、EVは普及しないだろう。
テスラが独自に設置しているスーパーチャージャーは、テスラ車でしか利用できない(写真は六本木ヒルズ内のスーパーチャージャー)
- 日本のEVの未来を考える(前編)
EVの未来について、真面目に考える記事をそろそろ書くべきだと思う。今の浮ついた「内燃機関は終わりでEVしか生き残れない論」ではないし、「EVのことなんてまだまだ考える必要ない論」でもない。今何が足りないのか? そしてどうすれば日本でEVが普及できるのかという話だ。
- EVへの誤解が拡散するのはなぜか?
EVがHVを抜き、HVを得意とする日本の自動車メーカーは後れを取る、という論調のニュースをよく見かけるようになった。ちょっと待ってほしい。価格が高いEVはそう簡単に大量に売れるものではないし、環境規制対応をEVだけでまかなうのも不可能だ。「守旧派のHVと革新派のEV」という単純な構図で見るのは、そろそろ止めたほうがいい。
- マツダのEVは何が新しいのか?(前編)
東京モーターショーの見どころの1つは、マツダ初のEVであるMX-30だ。クルマの生産から廃棄までの全過程を通して見たときのCO2負荷を精査した結果、35.5kWhというどこよりも小さいバッテリーを搭載した。世の中の流れに逆らって、とことん真面目なEVを追求した結果出来上がったのがMX-30だ。
- EVにマツダが後発で打って出る勝算
マツダが打ち出したEVの考え方は、コンポーネンツを組み替えることによって、ひとつのシステムから、EV、PHV(プラグインハイブリッド)、レンジエクステンダーEV、シリーズ型ハイブリッドなどに発展できるものだ。そして試乗したプロトタイプは、「EVである」ことを特徴とするのではなく、マツダらしさを盛ったスーパーハンドリングEVだった。
- バッテリースワップ式EVへの期待と現実
時期はともかく、EVは必ず普及する。ただしそのためにクリアしなくてはいけないのがバッテリーの問題だ。EVの性能を決める心臓部品でもあるバッテリーは、高価な部品である。ではどうやって安いバッテリーで充電の待ち時間を短縮するか? という話になると人気の説の一つが、バッテリースワップ方式。ここに可能性はあるのだろうか?
- トヨタとマツダとデンソーのEV計画とは何か?
かねてウワサのあったトヨタの電気自動車(EV)開発の新体制が発表された。トヨタはこれまで数多くの提携を発表し、新たなアライアンスを構築してきた。それらの中で常に入っていた文言が「環境技術」と「先進安全技術」である。
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