なぜマスコミは、企業の倒産を「社会のせい」にしてしまうのかスピン経済の歩き方(3/7 ページ)

» 2020年01月21日 08時05分 公開
[窪田順生ITmedia]

“延命”企業があふれている

 当たり前の話だが、会社経営は昔と同じことを昔と同じやり方で続けているだけでチャリンチャリンとなるような甘いものではない。目まぐるしく動く世の中に合わせて自分たちも常に変わっていかなければ、またたく間に国内や海外との競争に負けてしまう。

 そのような意味では、「現状維持型小規模事業者」は典型的な「競争力のない企業」であり、いつ経営難に陥ってもおかしくない倒産予備軍でもあるのだ。事実、「小規模企業白書」の企業規模別倒産件数の推移でも倒産は小規模企業に集中している。例えば、18年に倒産した大企業は0、中規模企業は901に対して、7334の小規模企業が潰れている。

 「小規模事業者がそんなにヤバいなら、もっと倒産件数が増えているはずだろ」と思うかもしれないが、そうなっていないのは、国が手厚く支えていたからだ。63年の中小企業基本法以降、日本は中小企業を支援するさまざまな取り組みが行われていたが、それが一層手厚くなったのがリーマンショック以降である。政府が計上する中小企業・小規模事業者関係予算は毎年1700〜1800億円程度となっている。

 しかし、このような手厚い支援によって「延命」することはできても、どこかで限界がきてしまう。先ほども申し上げたように、「現状維持型小規模事業者」は構造的に新規事業に踏み出すことが難しいので、支援を受けても成長することができず、終わりのない消耗戦を続けるうちに従業員の高齢化や、後継者不足でギブアップせざるを得なくなってしまう。

 それが友田氏におっしゃる「各種支援を受けながらも業績が回復せず、誰が背中を押したわけでもなく限界に達した」という「息切れ型倒産」のメカニズムだ。高齢化の進行にともなって、この手の小規模事業者の「自然死」はどんどん増えていくはずだ。

 という話をすると、「私のまわりでは消費増税のせいで潰れている会社がある!」とか「知り合いの社長が人手不足で廃業した」とか個別の事情を持ち出す人たちが必ず出てくるので誤解なきように言っておくと、筆者は消費増税やら人手不足で倒産しました、という話を全否定しているわけではない。

 「成長できずに国からの支援でかろうじて”延命”している小さな会社があふれている」という日本の産業構造の致命的な欠陥に言及することなく、社会が悪い、政治が悪い、とよそに責任を押しつけてしまっていることが、問題の本質をぼやかして、日本経済をさらに低迷させてしまわないか、ということを指摘したいだけなのだ。

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