例えば、スマートフォン向けゲーム開発などを手掛ける某社は、業界の中でも歴史が長く、株式公開も早期に果たして、現在はほぼ残業もないとされる。効率的な労働環境を成し遂げた、いわゆる「勝ち組」企業である。株式公開までは給与水準も低かったものの、公開後の現在は大幅にベースアップも果たし、業界内では好待遇な部類に属する。そんな、社員にとって何ら不満理由はないはずの同社において、一時期「優秀な人から辞めていく」現象が見られたことがあった。
筆者が調査したところ、理由は、同社の「ホワイト企業化」そのものにあった。
株式公開に合わせて、同社の業務はキッチリと縦割りになって意思決定システムが整備されたが、その分何をやるにも上司の承認が必要になったり、他の部門の領域に重なる仕事を手掛けることは「領空侵犯」扱いになったりと、従前の社風であった自由闊達さが失われてしまったのだ。加えて、組織体制は上場企業レベルにキッチリと整備されたが、中の従業員は上場前の組織に最適化して採用されている。そこにミスマッチが生まれていた上、その変化について従業員がどう感じているかという点に経営者が無関心だったことが原因であった。
そう考えると、従業員にとっての「いい会社」≒ホワイト企業においても、さらに細分化して分析することができそうだ。ホワイト企業と称される根拠である「低離職率、低プレッシャーな環境」は俗に「まったり」と称される。これともう一つの根拠である「高給」を組み合わせて、それぞれの在籍者から訴えがあったネガティブ要素を挙げていこう。
最後の「まったり高給ホワイト企業」は冗談だが、このように、「誰にとってもいい会社」は存在しないのだ。
従って、「多少ハードワークでプレッシャーも厳しく、ブラック企業と呼ぶ人もいるが、自分はそんな環境で成長したいし稼ぎたい。だからブラック企業を選ぶ」という選択肢もあっていい。もちろん、違法企業への就労を奨励しているわけではないし、違法であることを知りながら私利私欲のために人を使いつぶすような企業は、さっさと潰れた方がいいと考えている。
しかし、世間が言うところの「ブラック」をそのまま真に受けて、思考停止になることは、個人、そして組織の双方に避けてほしいものだ。ただでさえ、競争力が乏しい日本企業において、誤った「ホワイト企業信仰」が浸透して、このまま下り坂を転げ落ちていくことは避けなければならない。
予約受付時点からAmazon新着ランキング1位を記録した最新刊「問題社員の正しい辞めさせ方」が好評発売中です。
度重なる遅刻や欠勤、協調性欠如、職場外でのトラブル――。組織の秩序を乱し、周囲が対応に苦慮する問題社員は常に存在します。一方で労働者の権利意識も高まり、問題社員への初期対応を誤ったため、労働紛争や風評被害など、重大なトラブルに発展するケースも少なくありません。
本書では、トラブル対応と企業防衛の専門家と、労務問題対応を専門とする社労士がタッグを組み、実際に発生したトラブル事例を用いて、ケース別の実践的な対処法と予防法を詳しくお伝えします。
「不当に解雇する方法を説くものではなく、問題社員への注意の仕方やコミュニケーションの取り方、チーム全体で適切な指導を行う方法を解説するものです。本書内容を実践頂き、真面目に働く人が活躍でき正当に評価される、真っ当な職場環境を実現して頂けることを願っております」(新田氏)
働き方改革総合研究所株式会社 代表取締役/ブラック企業アナリスト
早稲田大学卒業後、複数の上場企業で事業企画、営業管理職、コンサルタント、人事採用担当職などを歴任。2007年、働き方改革総合研究所株式会社設立。労働環境改善による企業価値向上のコンサルティングと、ブラック企業/ブラック社員関連のトラブル解決を手掛ける。またTV、新聞など各種メディアでもコメント。著書に「ワタミの失敗〜『善意の会社』がブラック企業と呼ばれた構造」(KADOKAWA)他多数。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング