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テレワーク終了宣言? 経団連「出勤者7割減見直し」提言に潜む違和感の正体喉元過ぎれば熱さを忘れる、でよいのか(2/3 ページ)

» 2021年11月24日 05時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]

 もう一つの違和感は、日本の経済界を代表する団体が「出勤者の7割削減見直し提言」を発表することで、社会にネガティブな影響を与えるメッセージになってしまうのではないかという点です。

 むろん、そんな意図はないと思いますが、まるで「今後はテレワークを推進して出勤者数を積極的に減らしていくつもりはない」と経済界全体の意志として宣言したように聞こえてしまいます。それでは、せっかくコロナ禍という未曽有の危機の中で培われた、テレワークの推進機運に水を差すことになります。

 確かに、エッセンシャルワーカーと呼ばれる働き方の社員が多くを占める会社も含めて、一律に出勤者を7割減らせというのは無理な面があるのかもしれません。しかし、地震の翌朝に駅で列をつくっていた人たちは、全員がエッセンシャルワーカーだったのでしょうか。その中には、職場体制を工夫改善さえすれば通勤せずに済んだ人たちが、かなりの割合で含まれていたはずです。

 いざというとき、いつでも在宅などのテレワーク勤務に切り替えられる体制を整えておけば、会社は不測の事態が起きても事業運営を止めることなく継続できる可能性が高くなります。コロナ禍が落ち着きそうだから、とテレワーク推進の手を緩めたり、働き方を元に戻してしまう方が、長い目で見ると経済活動への支障が大きいのではないでしょうか。

喉元を過ぎても、熱さは忘れるな

 「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ということわざがありますが、世界中の人々を苦しめているコロナ禍の記憶も、沈静化されるとともに薄れていき、やがては喉元を過ぎた“熱さ”として忘れ去られてしまうのかもしれません。しかし、コロナ禍がもたらした教訓は、喉元を過ぎたからと忘れてもいいような一過性の“熱さ”ではないはずです。たった一つのウイルスが世界中の人々の生活に影響を及ぼし、経済活動をマヒさせるほどの危険性があることを知らしめた人類史上に残る教訓です。

 また、会社によってその成否に違いはあるにせよ、危機に際して、テレワークの活用次第では事業活動の継続ができるという経験を得られたことも経済界にとっては大切な教訓です。コロナ禍が発生する前からテレワーク推進に積極的に取り組むなど体制を整備し、出勤でもテレワークでも遜色なく事業継続できた会社は、テレワーク環境の構築がいざというときのリスク対応力を高めると身をもって学んだはずです。

 一方、コロナ禍の一時しのぎで無理やりテレワークを導入したような、うまく活用ができなかった会社では、テレワークそのものがつらい記憶になってしまったと思います。そして、コロナ禍の沈静化とともにテレワークの失敗が喉元を過ぎた“熱さ”となり、いずれ忘れ去られてしまいそうです。

実際、こうした景色は徐々に戻りつつある(画像はイメージ、出所:ゲッティイメージズ)

 そんな経験の違いは、テレワークを今後の職場改善に積極的に生かすために推進強化する会社と、早々に出勤前提の職場体制に戻そうとする会社とに分けることとなり、コロナ禍のような危機が生じた際の事業継続性において大きな差を生み出すことになるのだと思います。

 以上は、経済界がテレワークを推進することによる、経済活動領域内での影響ですが、もう一つ大切な観点があります。

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