RFIDで万引き被害削減をねらう出版業界特集:ITが変革する小売の姿(1/2 ページ)

これまで、マルエツの実証実験をベースにRFIDの技術的な課題や、政治的問題という側面もある標準化の問題を取り上げた。今回は、導入を検討する小売の各企業がRFIDに何を期待しているのかについて触れる。だが、利用面を考える場合も現状ではどうしても技術面の壁にぶつかってしまうようだ。

» 2004年10月04日 10時42分 公開
[怒賀新也,ITmedia]

 これまで、マルエツの実証実験をベースにRFIDの技術的な課題(関連記事)や、「政治的問題」という側面もある標準化の問題(関連記事)について取り上げた。今回は、導入を検討する小売の各企業がRFIDに何を期待しているのかについて触れる。特に、「万引き防止」に期待を込める出版業界について詳しく紹介する。だが、ユーザーのRFID利用への思惑を考えた場合も、技術的課題が壁として立ちはだかってしまうのが現状となっている。

 通常、RFIDの導入を検討する企業が目指す最大の要件は、物流の効率化にある。(これについては、関連記事で紹介。)だが、同じ小売業でも、それぞれの事情によっては、これ以外の利用目的を想定している場合がある。例えば、高級ブランド品を扱う業者は商品の真贋判定を、家電商品ではリサイクル、生鮮食品では温度管理などを行おうとしている。

出版業界は万引き防止がきっかけ

 そして、独自の要件が主要な導入理由になっている小売業者もある。例えば、万引き被害の防止を目指す出版業界だ。欧米の出版業界では、定期購読が中心になっているからか、RFID導入は検討すらされていない状況という。だが、日本では同業界がRFIDの実証実験の進捗でもほかの業界をリードしている。出版流通の改善を目指す法人組織、日本出版インフラセンターによると、これは、古本屋が新業態として台頭したことにより、万引き商品の換金が容易になったこと、また罪悪感の喪失にも原因があるという。

 書店における万引きの被害額は1店舗あたり平均で年間212万円(平成14年10月の経済産業省の調査)に上る。年商の平均は1億312万円(平成14年度経済産業省商業統計)。利幅の薄い出版業界では、黙って見過ごすわけにはいかない被害規模だ。そこで日本出版インフラセンターは、ICタグ研究委員会を組織するに至った。

 ICタグ研究委員会を設立した日本出版インフラセンターは、書籍出版協会、雑誌協会、取次協会、書店商業組合、図書館協会という製造から販売までを構成する書籍関連5団体で構成される。一般会員として、小学館、講談社、集英社、文藝春秋などの大手出版社も登録している。

 同センター広報を担当する講談社の永井祥一氏は、「店頭の万引き、発売日違反の発見、倉庫における不正返品の防止も視野に入れている」と話す。

 また、新たな需要の発掘などマーケティングの高度化にもRFIDを利用したいという。例えば、店舗レイアウトや陳列場所、展示方法を最適化し、売り場の効率を上げることにもRFIDを役立てる考えだ。

RFID導入の効果はビジネスのスピード化

 出版業界にICタグが導入され、技術や運用の課題をクリアした場合、「物流、商流、情流の一元化、スピード化、デジタル化が一気に進む」(永井氏)という。まず、どの書籍がいつ売れたか、どの本棚、倉庫にあったかなど、従来のPOSだけでは把握するのが難しい情報も取得できることで、消費者が、欲しい時に欲しい本を手に入れる環境を提供できる。

 また、特定の書籍について、売れ行きがいい店舗に在庫を集めるといった在庫の運用もすばやく行うことができる。結果として、販売量の増加も見込めるとしている。

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