日本原子力研究所が2048CPU構成のLinuxスパコンを導入――スパコンの現状を探る

日本SGIは、同社が提供する「SGI Altix3000シリーズ」を中心としたスーパーコンピュータシステムを日本原子力研究所が導入することを明らかにした。この発表とスパコンの現状についてお届けしよう。

» 2004年10月21日 11時30分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 日本SGIは10月21日、同社が提供する「SGI Altix3000シリーズ」を中心としたスーパーコンピュータシステムを、日本原子力研究所が導入することを明らかにした。

 日本原子力研究所では、原子力の研究開発における大規模な科学技術計算の需要に対応すべく、その時代の最高水準の大型コンピュータを導入している。同研究所では、今後、飛躍的な増大が予想される計算需要に対応して、東海研究所と那珂研究所のシステムを統合し、新たに10倍以上の処理能力を実現すると共に、大規模シミュレーション計算結果など、大量な計算データを東海地区から那珂地区へ高速に転送し、効率的な可視化処理を実現する新システムを検討していた。

 その結果、今回、富士通が提案し落札した次期スーパーコンピュータシステムの導入を決定した。同システムは日本SGIが提供する「SGI Altix3000シリーズ」を中心としたもので、富士通は日本SGIと共同で2005年3月末の本稼働に向けて納入する予定。今回の受注金額は数十億規模と推定される。

 米SGIは7月に、NASAのプロジェクト「Project Columbia」の基盤システムに同社の「SGI Altix」が選ばれたと発表している。同プロジェクトでは、Itanium 2プロセッサを512個搭載したSGI Altixシステム20台(総プロセッサ数1万240個)と、500TバイトのSGI InfiniteStorageを統合したLinux採用のスーパーコンピュータ「Space Exploration Simulator」を構築しているが、今回の案件はそれに次ぐ規模となる。

Itanium2が2048個で、搭載理論演算性能は13TFLOPS

 新システムの中心となる並列計算機は、Itanium2プロセッサを2048個搭載し、Linux(Red Hat Enterprise Linux)をOSに採用したSGI Altix 3000シリーズの最新機種(市場には近日発表予定)。理論演算性能は13TFLOPSで、世界最大となる13Tバイトの大規模な共有メモリを実現するLinuxスーパークラスタシステムとなる。

 また、東海研究所に設置した並列計算機の膨大な計算データを、東海研究所及び那珂研究所の双方から共有し高速なアクセスを可能とするために、磁気ディスク装置「SGI InfiniteStorage TP9300」とSANのための高速共有ファイルシステムである「SGI CXFS」を納入し、両研究所間約10Kmを、WDM装置(波長分割多重装置)を介して接続する。

 さらに、並列計算機の処理結果を、密接な連携処理で3次元立体表示するため、大規模データの可視化サーバシステムとして、東海研究所にはSilicon Graphics Onyx4 Ultimate Vision、那珂研究所にはハイエンド・ビジュアライゼーションシステムの新型グラフィックス・パイプを搭載した新Linuxグラフィックスサーバ「SGI VSL3000」シリーズを納入する予定だ。

スパコンのトレンドを考える

 スパコンというと、TOP500 SUPERCOMPUTER SITESを連想する方もおられるだろう(記者もその一人だ)。ここでは、世界中から寄せられたLinpack Benchmarkの結果を基に、年2回スパコンのTOP500を発表している。最新のランキングは2004年6月のものだ。

 1位はここ数年、NECの地球シミュレータがその座を保持しているが、35.86TFLOPSという値は、他を大きく引き離している。2位には米ローレンス・リバモア国立研究所の「Thunder」がランクインしてきたが、同システムはItanium2を4096個搭載し、19.94TFLOPSの性能となっている。

 最近はこのランキングに、IBMが開発している「BlueGene/L」というPowerPCベースのスパコンが殴りこみをかけている。BlueGene/Lはプロトタイプながらすでに4位と8位にランクインしている。2005年に米ローレンス・リバモア国立研究所に納入予定のBlueGene/Lが、地球シミュレータの地位を脅かすのは間違いない。しかも、消費電力、システムの設置面積ともに地球シミュレータを下回ると予想されている。

 もちろんNECも黙ってみているわけではない。10月20日には、最大65TFLOPSの性能を持つ、「SXシリーズ モデルSX-8」を発表している。

 今回日本原子力研究所に納入されることとなったスパコンは、富士通と日本SGIが共同で納入する予定となっている。富士通は理化学研究所にも「RIKEN Super Combined Cluster」というスパコンを納入しており、同システムは7位(8.72TFLOPS)にランクインしている。こちらもLinux PCクラスタシステムだ。

 TOP500 SUPERCOMPUTER SITESで用いられるLinpackの測定結果は、必ずしも実稼動の性能を反映するものではないのは明らかだ。かつ、クラスタシステムであれば、Linpackの値を大きく下回ることも予想される。今回日本原子力研究所に納入されるスパコンは理論演算性能が13TFLOPSとある。Altiixシリーズの従来からの実績を考えると、理論値の80%程度が、つまり、10TFLOPS前後が実効性能であると予想される。となると、現在のランキングで、6位か7位、つまり「RIKEN Super Combined Cluster」の上あたりに位置することになる。

 さて、日本の現状だが、地球シミュレータこそ1位だが、TOP500にランクインしている日本製スパコンは減少傾向にある。ちなみに、現在約30システムがランクインしている。

 一方、中国製スパコンが日本を猛烈に追い上げている。中国製スパコンは現在15システムがTOP500にランクインしているが、今回10位にランクインした「曙光4000A」など、Opteronベースのクラスタシステムなどの登場が今後も予想される。来年のランキングでは逆転されることも十分にありえそうだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ