ZigBeeは日本の製造業を救う?寄稿後編(3/4 ページ)

» 2004年12月02日 19時44分 公開
[波多野祥二、浅井龍男ほか,OTSL]

 情報技術に携わる者ならば、水平方向と垂直方向の2つの情報の流れを管理する必要があることに気づくかもしれない。

 大雑把に言うと、過去10年間熱心に議論し導入が試みられてきた米国発のサプライチェーン・マネジメント・システム(SCM)は、水平方向の情報流のモデル化と実装を最大の関心事にしてきていたと言える。

 これに対して、日本の製造業モデルに関する議論の多くは、水平方向と垂直方向の両方の情報の流れやその間の相互作用に着目する傾向が強い。実際に日本の製造業は、図-2のような情報の流れを経験的に構築してきたと見ていいだろう。

図-2. 垂直方向の情報流と日本企業のプラクティス。

 情報システムには、図-2に示す情報流の支援が求められることになるが、現場の生情報の入手方法が困難であるため、情報の断絶を起こしているのが現状のようだ。

 現場で何が起きているのかを確実に把握するための機器に関する情報がなかなか収集できないという話を最近よく聞く。これまで、現場の人間の判断能力や柔軟な例外処理能力でこうした問題を解決してきたが、生産活動の質を一層向上させるためには、従来収集できていなかった情報を収集し、正確な判断を行う必要が出てきている。

 近距離無線技術は、情報を現場をつなぐこと、そして、それによるプロセス・イノベーションの基礎となることが期待されているのだ。メッシュ型ネットワーク上に構築されるセンサーネットワークは生産現場の状況の把握と自律的制御の基盤となることができるだろうし(図-3)、適切な距離感と精度を持つ位置情報システムと個体認識機能を組み合わせた季節工やパート作業員に対するガイダンス機能は、生産技能の底上げの基盤となる。

 そしてさらに重要なことは、それぞれの現場を起点とする垂直方向の情報の精度の向上が、サプライチェーン全体の無駄の排除と意思決定の精度向上に結びつくという点である。

 もとよりZigBeeだけですべてが簡潔するわけではない。たとえば、1アイテムあたりの利益が数百円〜数円の商品でひとつ200円程度のZigBeeチップを個体識別に使うわけにも行かないだろうし、ppm単位の不良品率が追求されている生産現場で数%の読み取りエラーを起すICタグを現状のまま導入するわけにはいかない。

 結局、通信距離、データの読み取り精度、コストの三要素に応じた複数の規格が、複合的な形で垂直方向の戦略をサポートするというのが現実的なシナリオとなる。RFIDとZigBeeについて見ると、店頭視聴、店頭精算、履歴管理、盗難防止など小売店などの流通現場ではRFIDシステムが主に使用され、生産ライン制御、倉庫管理、店舗入出庫、生産用資材管理、店舗用機器制御などの領域ではZigBeeが利用されるというのが基本的な方向性となると考えられる。

図-3.センサーネットワーク

ZigBee普及のための課題

 最後に、ZigBeeが普及するための課題について触れておきたい。ZigBeeに限った話ではなく近距離無線技術の場合、ビジネス構造と電波法による規制という2つの大きな課題が存在している。近距離無線の場合、RFと呼ばれる変調チップ、メモリ、CPUなどを供給する半導体ベンダー、それらをまとめて機能させるモジュール・メーカー、完成品メーカー、情報システムベンダーなどがビジネスの連鎖を形作ることになる。

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