安価なハードウェアをOracle RACの「技術力」で組み合わせたスクウェア・エニックス

3億円のオンラインゲームシステムをDellのIAサーバとNetAppのNASで置き換えたスクウェア・エニックス。ユーザーたちは安価なハードウェアを技術力で組み合わせて活用しようとしている。

» 2005年02月24日 17時11分 公開
[浅井英二,ITmedia]

 「オンラインゲーム上で新たなテクノロジーの伝説が始まる」──2月24日、都内で開幕した「Oracle 10g World」でスクウェア・エニックスの伊勢幸一ネットワークシステム部長はそう話した。

 Oracle 10g Release 2のお披露目を兼ねて開催された同カンファレンスのテーマは、「Working on the Grid」。展示フロアやセッションを通じ、32件に上るOracle 10gの導入事例を紹介するという。午前のオープニングセッションに登場した新宅正明社長も「(昨年4月にDatabaseの出荷が始まった)Oracle 10gは順調な立ち上がりを見せている」と強調した。過去のバージョンでの構成も含めたRAC(Real Application Clusters)の導入件数も1600に達している。

 24時間365日、昼夜の分け隔てなく稼動させなければならないスクウェア・エニックスのオンラインゲームサービスを支えているのもRACだ。ファイナルファンタジーXI(イレブン)は55万人以上が利用している世界最大のMMORPG(Massively Multiplayer Online Role Playing Game)。キャラクターや仮想世界のデータ、あるいはフレンドリスト(仮想世界で知り合った仲間のリスト)などをデータベースに格納し、会員数に比例して変動する負荷にも耐えなければならない。

 同社が2001年、最初に構築したシステムで選んだのは、データベースシステムの王道ともいえるSun Fire×2台とSun StorEdgeの組み合わせ。Oracleのライセンスを除いても、3億円に達する。伊勢氏が「水商売」と自嘲気味に話すオンラインゲームのビジネスにとって、莫大なシステム投資だ。

 しかし、それでも長期に利用できればいいが、稼動からわずか1年でCPUの平均負荷が40%を超えてしまった。

 「サイジングに問題がある、といわれればそうだが、コンシューマーを対象としたネットワークサービスの場合、読みは難しい」と伊勢氏。CPUの増設も検討したが、4CPU(750MHz)のモジュールで何と800万円という見積もりに断念。RAIDシステムもI/O性能が追いつかなくなってしまった。こうした経験から学んだことは、「マルチプロセッササーバやRAIDシステムは2年で陳腐化する」だった。

 2004年に入ると伊勢氏はシステムの抜本的な改革に乗り出した。

  • 常に最速のCPUを使いたい
  • 置き換えたストレージはほかの用途に使いたい
  • コンテント間の負荷相互影響をなくしたい
  • コントントごとに性能を微調整したい
  • そして何よりも、とにかく安く!

 こうしたニーズを満たすべく選ばれたのは、Dell PowerEdge 1750(3GHz)×2台、ネットワークアプライアンスのNetAppファイラー F270×2台だった。クロック数の高いIAサーバはともかく、TCP/IPとNFSを使ってアクセスするNAS(Network Attached Storage)については信頼性や性能面での懸念があったが、シンプルな構成であれば、実測で遜色がないことも検証できたという。3億円のシステムは、何と1000万円のシステムで置き換えられることが可能だったのだ。

 「IAサーバだけでなく、スイッチもストレージも気軽に交換できてしまう。そして何と言っても性能が同じで価格は30分の1と劇的に下がった」と伊勢氏。

 既にNetAppファイラーをメールサーバだけでなく、ゲーム開発部門やCGムービー作成部門などで中核ストレージとして活用しているため、置き換えたストレージの使い回しも容易だという。

グリッド? それで幾ら?

 しかし、今回のOracle 10g Worldでもオラクルが盛んに喧伝するエンタープライズ・グリッド・コンピューティングについては、伊勢氏はかなり冷静に見ている。

 「ダイナミックにリソースを振り分けられたら逆にサービスから見て迷惑な話だし、ジョブのピークをバランスしてリソース活用できるというが、そもそもそれができれば苦労はない」と厳しい。「しかも、あるベンダーが見積もったシステム価格は3億円。あり得ない提案」と伊勢氏は一蹴する。

 それでも、サービスを停止せずに「故障機の入れ替え」「増設」および「縮小」が可能なグリッドには魅力を感じたという。

 現在、同社ではIAサーバ3台で構成していたRACシステムに5台を追加し、合計8台へと拡張している。動的なリソースの振り分けではなく、余裕を持たせて安価なハードウェアを導入、月単位での振り分けを実施しているという。原始的だが最も確実な方法だと伊勢氏は話す。

 もちろん、Oracleデータベースのライセンスを無視するわけにはいかない。ハードウェアのコストが劇的に下がれば、Oracleの占める比率は相対的に上がる。しかし、伊勢氏は、安いハードウェアを「技術力」で組み合わせた低価格なシステムを求めている。価値は着実にハードウェアからソフトウェアに移っているといっていいだろう。

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