「both source」で攻勢に転ずるノベル

Linux市場で勢いを増しているノベルは、プロプライエタリなコードとオープンソースのコード、つまり「both source」を武器にかつての輝きを取り戻しつつある。

» 2005年03月10日 08時59分 公開
[ITmedia]

 レッドハットに続いて紹介するのは、今、Linux市場で勢いを増しているノベルである。同社はかつてのフラッグシップ製品であった自社の「NetWare」を事実上放棄し、Linuxを推進する姿勢を明確に打ち出している。この姿勢は積極的なM&Aからも見て取れる。

 同社は2003年8月に、「Ximian Evolution」やソフトウェア統合管理ツール「Ximian Red Carpet」を開発する米Ximianを買収。続いて同年11月には、IBMから5000万ドルの出資を受け、独SUSE LINUXを現金2億1000万ドルで買収するなど、Linux市場におけるプレゼンスを大きく拡大した。ちなみに、SUSE LINUXはサンにも買収話を持ち掛けたが、こちらは退けられた。

既存製品と組み合わせたフルスタックソリューション

 この買収以前、日本におけるSUSE LINUXのシェアは微々たるものだった。これはSUSE LINUXの日本法人や強力な販売代理店が存在しなかったためだが、ノベルに買収されたことで、2004年6月には日本国内でも本格的にSUSE LINUXの提供が始まった(関連記事参照)

 ノベルの強みは、「NetWare」や「eDirectory」などに代表されるネットワークOS/ディレクトリ技術とSUSE LINUXを統合し、フルスタックのプラットフォーム・ソリューションとして展開できる点にある。

 例えば、これまで提供してきた「iFolder」、「iPrint」、「NetMail/GroupWise」などの各種ネットワークサービスをLinux上で利用可能にしたサービス・パッケージ「Nterprise Linux Services」(NLS)や、「Netware」からのマイグレーションパスとして用意された「Open Enterprise Server」にその一端を見ることができる。こうした製品を利用することで運用中のネットワーク/サービスを容易にLinux環境に移行可能となる。

SUSE LINUXの特徴と実力

 SUSE LINUXは、ノベルに買収される以前からその機能や性能には定評があった。事実上活動が停止しているUnitedLinuxのベースにもSUSE LINUXが採用されていたことからもその実力がうかがえる。

 YaSTに代表される管理機能もさることながら、特にセキュリティ面での評価は高く、直近では、IBM eServer上で稼働するNovell SUSE LINUX Enterprise Server 9(SLES 9)が、CAPP/EAL4+と一般に呼ばれている制御アクセス保護プロファイルへの準拠を達成している。商用UNIXなどでは早くからEAL4程度は取得していたが、ようやくLinux勢もこのレベルに達してきたといえる。

 現行のSUSE LINUXの製品ラインアップは、前述のSLES9(基幹系業務用途)のほか、中小規模向けの「Novell SUSE LINUX Standard Server 8」(SLSS8)、企業クライアント向けの「Novell SUSE LINUX Desktop 9」がエンタープライズ用途として、また、レッドハットがすでに撤退した一般ユーザー向けには「Novell SUSE LINUX Professional 9.2」(SLP9.2)をそれぞれ提供している。

 2004年8月にリリースされたSLES9は、Linuxカーネル2.6の採用だけでなく、IBMとの共同開発による独自のクラス単位カーネルリソース管理「CKRM」(Class-based Kernel Resource Management)や2ノードハイアベイラビリティ・クラスタを統合管理ツール「YaST」から構築できるなどの新機能も加わっており、Red Hat Enterprise Linux ES/ESと直接競合する製品となっている。

 各OSの価格やサポートについては別の機会に解説していく予定だが、ノベルでは製品ごとではなく、顧客企業による導入全体をサポートするため、顧客は追加のサポート契約を結ぶことなくLinuxを含むNovell製品を柔軟に評価、採用できる仕組みを採っている。レッドハットがサポートの対価として料金を設定しているのとは対照的だ。

Autobuildシステムで迅速なパッチ配布も

 SLES9でサポートされるプラットフォームは、RHELと同様、IA32、ItaniumおよびAMD64、EM64T(AS/ES/WS)、eServer zSeries/pSeries/iSeriesおよびS/390(ASのみ)など幅広い。

 幅広いプラットフォームに対応するということは、アップデートの提供や動作検証、サポートなどに多大なコストがかかることを意味する。また、アップデートの遅れやプラットフォームごとのサポートの質に違いが生じる可能性もある。そこで注目したいのが「Autobuild」と呼ばれる統合開発システムだ。

 Autobuildは、単一のソースコードから、すべてのプラットフォーム向けのバイナリを自動でビルドする機能が含まれている。これによりノベルは人手が必要な作業を大幅に削減し、かつ、複数のプラットフォーム上で一貫性かつ即時性が保証されたプログラムを提供することに成功している(脆弱性に対するパッチがどの程度迅速にリリースされているかなどは別記事で紹介していこう)。

 Autobuildでもたらされるユーザー側のメリットとして、例えば、IA32サーバ上での動作を前提としたLinuxアプリケーションを、大規模サーバやメインフレーム上にも移行可能なスケーラビリティが保証されることも挙げられる。

日本での展開には課題も

 SUSE LINUXは、レッドハットの製品群と比べても優劣をつけがたいディストリビューションとなっている。しかし、国内での展開という意味ではまだ波に乗れていない印象もある。

 特に、良質なドキュメントをはじめとする日本語情報がほかのLinuxディストリビューターに比べて少ないことが不安要素として挙げられる。PDFで大量のドキュメントが提供されているとはいえ、Webサイトなどを見ると、肝心なところで海外のサイトに飛ばされることも多い。導入前に情報を得ようとする場合にはストレスがたまるとこぼすユーザーも少なくない。Linuxの適用範囲を基幹系まで引き上げ、エンタープライズLinuxの市場自体を拡大していくことを狙うノベルにとって、この辺りの改善が急務だといえる。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ