PART1 SkypeがIP電話に与えるインパクト特集:Skypeは企業IP電話を変えるか(3/4 ページ)

» 2005年05月25日 16時00分 公開
[徳力 基彦,N+I NETWORK Guide]

 また、Skypeを利用すると「電話」のかけ方も大きく変わってくる。これまでの一般電話では、一度相手先にかけないと、相手の在席状態もわからなければ、相手が通話できる状態かどうかさえもわからなかった。

 Skypeでは、インスタントメッセンジャー(IM)のように相手のプレゼンス(在席状況)の情報を表示する機能がある。つまり、相手のPCの起動状況を基に、少なくとも相手の在席状況を推測することはできる。さらに、いきなり電話をかけるのではなく、まずテキストチャットによって電話してもよいかどうかを確認してからかけることにより、効率的に相手とコミュニケーションをとることが可能だ。

 テキストによるグループチャットは同時に50人までサポートされるので、簡単な打ち合わせや報告はSkypeのテキストチャットで済ませてしまうという使い方も考えられる。

●利用例3:会議通話

 Skypeの機能でもう1つ特徴的なのは、5名までのユーザー間で簡単に会議通話を行える点である(画面5)。

画面5 画面5●Skypeによる会議通話 5名までのユーザー間で会議通話を行える

 一般電話では、電話会議サービスはオプション料金を支払う必要があるサービスであるため、なかなか電話会議を利用する機会が増えなかった。これがSkypeでは無料で実現できるため、複数名で同時に音声でディスカッションするといった利用シーンが増えてくるだろう。

 たとえば、急に複数拠点のメンバーで調整しなければならない案件が発生した場合、Skypeで全員参加の電話会議をすぐに始められる。一般電話であれば、複数名での意見を確認したり調整したりするためには、何度も個別に電話をし、1人ずつ確認していく必要があった。それが、5名同時の電話なら1回の通話で済んでしまう。さらに、その通話も全員がSkypeのユーザーであれば無料のため、カンファレンスコールの利用コストは削減できる。なお、ヘッドセットの代わりにスピーカーフォンなどの電話会議用の機器を利用すれば、東京の会議室で実施中の会議に、大阪や名古屋からSkypeで参加するといった使い方も可能だ。

 また、通常の電話会議システムでは声だけで参加者を区別しなければならないため、慣れないとなかなかコミュニケーションがうまくとれないことが多い。ここで、前述したSkypeのテキストチャットを併用し、声で説明しにくい部分や聞き漏らした部分はテキストの入力情報で再度フォローするという使い方もあるだろう。

既存のIP電話とどう違うか

●ISP型のIP電話サービスとの比較

 Skypeを通話料金削減手段のためのIP電話として見ると、比較対象となるのはYahoo! BBの「BBフォン」のようなISPが提供するIP電話サービスとなる。その場合、ユーザーから見た既存のISP型のIP電話サービスとSkypeの最大の違いは、無料通話が実現できる環境の幅広さにある(表2)。

電話の通話先 SkypeOutの通話料 BBフォンの通話料
日本の固定電話 約2.7円/分 7.5円/3分
日本の携帯電話 約17.5円/分 20円/分〜


電話の通話先 SkypeOutの通話料 BBフォンの通話料
アメリカ 約2.4円/分 2.5円/分
イギリス 約2.4円/分 23円/分
フランス 約2.4円/分 23円/分
中国 約3.1円/分 32円/分
韓国 約2.4円/分 31円/分
表2●SkypeOutとBBフォンの通話料比較 SkypeOutは、一般のIP電話サービスと同等、もしくはそれ以下の通話料金を実現している(料金は2005年2月末時点でのユーロでの通話料金を円換算したもの)

 サービスの利用者同士の無料通話という意味では、BBフォンなどISPのサービスによっては、ユーザー同士の無料通話が実現できる。ただしこの場合は、BBフォンならBBフォン同士などユーザーが同じIP電話サービス網を使うのが条件であり、複数の事業者が混在する現状では、実際のビジネスにおいてISP型のIP電話サービスで無料通話環境を実現するのはまだ難しい。SkypeではP2Pの仕組みによって、利用しているISPや通信事業者の違いを気にせずに、常時接続環境のユーザー同士ならほぼ問題なく、インターネット経由で誰とでも無料で通話が行える。

 だがもちろん、既存のISP型のIP電話サービスと比較すると、Skypeにはまだまだ足りない部分も多い。たとえばSkypeでは、前述のようにまだ一般電話からの電話を受けることができない。BBフォンなどでは、IP電話用の番号である050番号も利用できるし、ADSLモデム経由で一般電話回線との併用もできるため、電話サービスとしての使い勝手がよい。また、Skypeの通話音質についても、利用環境やインターネットの混雑具合に影響されて悪化するケースがまだ見られるようだ。

 現在の問題の中心は、SkypeOutのような一般電話との通話に中継が必要な部分にあるため、これらの使い勝手や品質の問題はある程度Skype側の設備投資などで改善すると考えられる。だが逆にいうと、中継部分においてはP2P技術による分散配信のメリットは生かせないため、Skypeが人気化すればするほど混雑の問題が大きくなるともいえるのだ。

 また、一般電話やISP型のIP電話サービスのように通信事業者やISP事業者が独自のネットワークによって通話の品質や安定性を維持できるサービスと異なり、Skypeは通話のデータをインターネット経由で配信する。そのため、本質的にはインターネットの混雑などの外部要因に影響される余地は残るだろう。

 そういう意味では、あくまで現状のSkypeは一般電話やISP型のIP電話を完全に置き換えられるサービスにはなっておらず、Skypeを補完する関連製品やサービスの登場を待たなければならない。

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