驚くべきはその想定カバーエリアと価格である。初期のサービスエリアは東京都の山手線圏内で光ファイバーのバックボーンに直結された約2200台のアクセスポイントを電柱に設置し、月額525円!という小学生の小遣いでも入れるような価格帯を設定したのである。しかもこの料金はISP代も含んでいるから525円ポッキリで無線ブロードバンドが使い放題ということになる。
525円というと喫茶店のコーヒー一杯分、マクドナルドのハンバーガーセット一個分。これで現在のADSL並みのブロードバンドが一ヶ月まるまる使えるというインパクトは非常に大きい。しかもADSLと違い、カバーエリア内なら自宅や会社のみならず外でもそのまま使えるわけだからADSLや光ブロードバンドさえも駆逐される可能性が出てくるだろう。
実際のサービスが開始されてからでないと真偽のほどは明らかにならないが、これらの情報から推測すると今後、各社の公衆無線LANサービスの料金の上限は月額500円程度にまで下がる可能性がある。場合によっては競争上、月額300円というようなことまで想定しておかねばならなくなるだろう。
そうなれば利用者は大人だけでなくPSPなどのゲーム機を持つ若年層まで一気に無線LANサービスに加入する可能性があり、利用者は爆発的に増えるだろう。海外での事例のように、携帯電話やPDAに無線LANを搭載するのが当たり前になり、携帯電話やPDAそのものが高速無線ブロードバンド端末になるのは確実だ。
3G携帯の低速で高額な無線パケットとは異なり、無線ブロードバンドならば最低でも数Mbpsの帯域が使い放題になる。どこにいても家庭や会社のブロードバンド環境と同じ環境が手に入るわけである。
私はいつもノートPCとPDAとXDAIIsをカバンに入れ、無線LANエリアを利用しながら実際の使い勝手を検証している。実際のところ、無線LANのエリアにさえ入れば、使い勝手は我が家のADSLと何ら変わらない。Webもメールも家や会社の環境となんら変わりない。Skypeもこれら3台で使い放題だし、WinAMPでインターネットラジオが聞き放題、インターネットテレビが見放題、GYAOで高画質無料映画も楽しみ放題になってしまうのである。さすがにリアルタイムのテレビ局の代替は不可能とはいえ、ブロードバンド環境をモバイルで外に持ち出して使える便利さは体験してみるのが一番だ。
「利用者にとって天国」のような無線ブロードバンドのこの快適さは、同時に「事業者にとっての地獄」の始まりでもある。月額数千円でかろうじて維持してきたADSLや光のブロードバンドサービスが一挙に月額500円の無線ブロードバンドとの競争に巻き込まれ、さらに今後1〜2年のうちには現在の携帯電話の通信方式とは比較にならないレベルの携帯電話用新技術が登場することにより、既存の電話会社、携帯電話会社は自分で自分のビジネスモデルを破壊せねばならなくなるだろう。技術革新の宿命とはいえ、そこでは厳しい選択を迫られることになる。
地獄の釜の蓋はまもなく開く。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.