Skypeと無線ブロードバンドが及ぼす通信業界への影響(1/7 ページ)

Skypeという革新的な無料電話サービス、そして無線ブロードバンドという新しいインフラは、通信業者と携帯キャリアのあり方にさまざまな影響を及ぼすだろう。(関連特集)

» 2005年06月21日 21時00分 公開
[清成啓次,ITmedia]

 拙著「Skype―世界規模の電話代無料革命」という本を出版して以来、Skypeに関するセミナーや講演を依頼される機会が増えてきた。最近も、4月15日に元赤坂の明治記念館で「全世界100兆円電話市場を揺るがすSkypeの全貌と世界各国の対応」というテーマで4時間ぶっ通しのセミナーを行ったが、高額の参加費にもかかわらず50名以上の大手通信企業の方々にお越しいただき、私のほうが驚いてしまった。

 私としては当初、主に海外企業との取引で高額な国際電話代を負担している中小企業経営者を対象とした内容を考えていたのだが、急遽変更し、Skypeやライブドアの方に登壇していただいてSkypeの将来像などを話してもらった。

 その講演の最後の部分に「Skypeが通信業界に及ぼす影響」という章を用意していたのだが、講演途中でSkypeとライブドアの方にスピーチと質疑応答をお願いしたこともあって時間切れとなったため、改めてここに文章という形で個人的な考えをまとめてみた。

128年間の電話の歴史が変わる?

 あくまでも個人的な予想という位置付けだが、たとえSkypeのような革新的な無料サービスでも、1〜2年という短い期間では通信業界にはそれほど大きな影響は出ないというのが私の考えである。しかし5年、あるいは10年という長期スパンで考えると、かなりの影響が出るのではないだろうか?

 これは、初期のインターネットと現在のインターネットとの社会的影響力の違いに似ている。経過時間によって影響の規模は大きく違ってくるからだ。

 ごく最近、最盛期には地球最大の企業として君臨したあのAT&TがSBC Communicationsに買収され、128年間の企業の歴史を終えるという衝撃のニュースがあった。AT&T凋落の原因はいろいろ取り沙汰されているが、歴史的に見ると「コミュニケーションの手段の多くが従来の電話網からインターネット網に置き換わった」ことの象徴とも言えるだろう。

 長い時間をかけながらも大きな力によって企業環境の土台が崩壊してしまうのは、地震のメカニズムに似ている。不動の大地と思われている大陸プレートも実際には地球内部のマグマの上に浮いた存在である。マグマの膨大な熱と巨大なエネルギーは各大陸プレート間に巨大な圧力を加え、やがてその圧力は一気に開放されて巨大地震が起きる。

 仮にマグマを「インターネット」に、巨大地震を「無線ブロードバンド」に、大津波を「Skype」に置き換えると、現在、通信業界に起きている事象を分かりやすく説明できると思う。通信業界にとってSkypeはあくまでも表層に起きた現象に過ぎない。恐るべきはインターネットであり、業界を根底から揺るがす直接的な大地震に当たるものが、今後普及していくであろう無線ブロードバンドである。

 私がFMOBILE(http://fmobile.nifty.com/)というモバイルに関するブログをやっている理由も実は無線ブロードバンドにある。ここでエントリを書きながら、どうすれば巨大地震の影響から逃れられるのかを考える日々が続いている。

 無線ブロードバンドはおそらく今後、ゆっくりゆっくり時間をかけながら電話会社、携帯電話会社、テレビ局、ラジオ局、新聞社、雑誌社……など、あらゆる情報系産業に従事する人々の仕事に容赦ない激震を加えるに違いない。

以下、Skypeという表層現象の説明から入り、やがて来るであろう無線ブロードバンドの大激震が近づいている事を感じ取っていただければ幸いである。

Skypeを生んだムーアの法則とインターネット

 Skypeは2003年8月29日にインターネット上に登場した小さな電話ソフト(以下、ソフトフォンと表記)である(関連記事)

 Skype以前にもインターネットからダウンロードできるソフトフォンはたくさんあった。古くはWhitePineの「CU-SeeME」、VocalTecの「InternetPhone」、Net2Phoneの「Net2Phone」などにはじまり、現在までに数十種類に及ぶソフトフォンが登場してきた。

 これらのソフトフォンが登場するには、「ムーアの法則」と「インターネット」という2つの要素が不可欠だった。というのはソフトフォンが動作するためには最低でも200MHz以上のクロック数を実現するCPUを確保する必要があるからだ。

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