太鼓叩きの文化にもオープンソース問題(2/3 ページ)

» 2005年08月24日 17時21分 公開
[Jay-Lyman,japan.linux.com]

演奏法の特許と亜流

 和太鼓演奏の発祥の地である日本でも、太鼓楽曲は伝統的に口伝され、共有されることが一般的だった。だが、1960年代にアジア系アメリカ人の文化運動が起こり、その中から北米太鼓グループが生まれて、助六スタイルの演奏を始めると、1つの問題が生まれ、論争が巻き起こった。助六とは、日本で傾き(かぶき)スタイルを創始したグループの名前である。

 相手はMicrosoftではない。傾きスタイルを考案し、完成させた団体であることはよく理解されていたし、賞賛も惜しみなく与えられていた。だが、その一方で、日本の大江戸助六太鼓だけが傾きスタイルを独占することへの懸念もあった。

 RIAAによるファイル交換の取り締まりにも似て、助六論争ほどオープンソース太鼓のアイデアを普及させたものはない、とKameda氏は言う。同氏の見るところ、助六スタイルを確立した大江戸助六太鼓にも、自分たちの演奏スタイルがアメリカで広まるのを歓迎する人々はいた。だが、奏法の知識も不十分なまま、助六の名で勝手に質の悪い演奏をやられてはたまらないと考える人々もいた。

 「1997年、アメリカで助六亜流が広まることを恐れる人々が、アメリカにおける助六太鼓代表であり、北米太鼓のゴッドファーザーとも言うべき田中先生に圧力をかけはじめました。助六太鼓の代表として、アメリカの太鼓グループが大江戸助六太鼓の許可なく助六スタイルを使い、助六レバートリーを演奏することをやめさせるよう、先生に指示してきました。助六太鼓とアメリカ傾き太鼓の論争は、結局のところ、著作権や特許の問題というより、大江戸助六太鼓が助六スタイルを管理したかったということ、自分たちの創意工夫による奏法であることを認め、敬意を払ってほしかったということだと思います」

 その辺の事情は徐々に認識されるようになったが、北米太鼓コミュニティーは助六側の要求を無視する道を選んだ、とKameda氏は言う。これに対し、大江戸助六太鼓は著作権と特許による締め付けを強めてきて、北米太鼓奏者との争いは今日でも完全には収まっていない。

 「この問題の鍵とも言うべき重要な要素の1つに、NATCと日本の文化的な違いがあります」とKameda氏は言う。「アメリカ太鼓と日本太鼓には、文化的にいくつかの違いがあります。まず、アメリカの太鼓は、アジア系アメリカ人の文化的運動から生まれてきたもので、あの運動が掲げていた理想がNATCにもそのまま引き継がれています。その1つがコミュニティー建設でした。コミュニティー建設は運動の重要な一部でしたし、NATCでもそれは変わりません。ここで考えられているコミュニティーとは、オープンで、共有と連帯の精神で貫かれているコミュニティーです。助六側の要求の問題点は、それが――確かに向こうの視点からは正当な要求なのでしょうが――この理想と真向からぶつかっていることです」

 同氏の態度はさらに明確で、助六側の懸念や不満は理解できないと言う。奏法を管理しようなどという試みは間違っている、とも言う。「自由な文化を推進する運動の一員として、ある打ち方で太鼓を叩いてはならんなんてことを人に命令するのは、とんでもないことだと思います。スケートボードでこういうジャンプをしてはならんとか、こういう技法で絵を描いてはならんとかいうのと、同じレベルのことではないでしょうか。演奏スタイルは、情報と創造性という一般的カテゴリに属する事柄です。誰もが自由に研究し、練習し、使用できるものでなければなりません」

 「太鼓コミュニティーが大江戸助六太鼓の心配を生産的な方法で乗り越えること――それが私の希望です」とBergstromは付け加える。「私個人としては、これで傾きスタイルをやめるのでなく、もっと使いたい。そして、確かに拙い技ですから、大江戸助六太鼓には上達のための指導をもっとお願いしたい」

オープンソースソフトウェアで太鼓をWebへ

 On Ensemble太鼓奏者の1人、Kris Bergstrom氏は、同グループのWebサイトをフリーソフトウェアで作っている。大学時代にLinuxやその他のオープンソースに出会った経験が、同氏をフリーソフトウェア愛好者に変えた。

 「とても簡単明瞭、それにちょっと時代遅れでしょうか」とBergstrom氏は言う。「標準的なDebian Woodyマシンに、Apache 1.3とPostfix、IMAPメール用にはCyrus、それにDNSにはBIND 9といったところです。別にバックアップ用のサーバがあって、こちらでは友人のRon Golan氏が書いたスクリプトが動いています。Mike Rubel氏の言うrsyncスナップショットを実装したスクリプトで、On Ensembleの技術的インフラのなかでは、ここが一番セクシーかもしれません……ネットワークに接続しているすべてのマシンのスナップショットを定期的に作成してくれます。仮にあるファイルを削除してしまって、1週間もそれに気づかなくても、回復が可能です。数週間分のスナップショットでも、システム上では2x程度のスペースしか占めません。夢みたいですね。何度か助けられました」

 「OnEnsemble.orgも、私自身も、フリーソフトウェアから大きな力をもらっています」とBergstrom氏は言う。「Windowsへのいらいらが募って、5年前にDebian GNU/Linuxに完全に切り替えました。これはずっと高度な環境ですから、ここで自由に泳ぎ回れるだけの知識を身につけるのはなかなか苦労でしたが、得るものは信じられないほど大きかったですね。小さなツールの組み合わせで大きな仕事を成し遂げる――このUnix理念は見事です。たとえば、 OnEnsembleが資金集めのメールを発送するときは、sed、uniq、sortでアドレスのCSVファイルを作り、メールマージとレイアウトを LaTeXで処理します。何度やっても、そのたびに思わず顔がほころんでしまいます」


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