「地球シミュレータ」は東京を長周期地震動から救えるか――地球シミュレータと耐震ビルがつながる未来コンテンツ時代の未来予想図(1/6 ページ)

地震の第1波をキャッチして自動的に耐震対策を実行する高層ビル。そのような夢の耐震システムにつながる研究が、スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を使って行われている。大地震による新たな脅威「長周期地震動」のシミュレーションを紹介しよう。

» 2005年11月22日 13時28分 公開
[中村文雄,ITmedia]

この記事は、オンライン・ムック「コンテンツ時代の未来予想図」のコンテンツです。

 2003年9月に発生した十勝沖地震によって、北海道苫小牧の石油タンクに火災が発生し、数多くの石油タンクが破損した。この災害は地震によって発生した「長周期地震動」(表面波)が原因だった。長周期地震動は数秒に1回程度のゆったりとした揺れで、地震波が平野のような堆積層に達したときに周期の長い表面波となり、それが長周期地震動となる。長周期地震動の周期は、ほぼ堆積層の深さに比例しており、例えば、地下に3000から4000メートルの堆積層がある東京周辺では6秒から8秒程度の長周期地震動が多く発生する。

 十勝沖地震の場合、地震波が勇払平野の東端部に達したところで表面波が発生し、長周期地震動が石油タンクを「共振」させて火災へとつながった。「共振」とは物体が持っている固有の振動数と、その物体に加わる振動数が一致して大きな振動が発生する現象。長周期地震動の場合、2秒に1回の揺れであれば20階のビルが、6秒に1回の揺れであれば60階のビルが共振しやすい。

 十勝沖地震で発生した長周期地震動は、普通の家屋にはほとんど影響はなかったが、石油タンクと共振して大きな被害となった。強い長周期地震動が大都市を襲ったとき、多くの高層ビルや大規模構造物に何らかの影響があるだろう。その影響を解析して、長周期地震動による災害を未然に防ぐため、スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」による研究が進められている。

地球シミュレータが再現する新潟中越地震の長周期地震動

 2004年10月に発生したマグニチュード6.8の新潟中越地震では、震源近くの地域が大きな被害を受けただけでなく、300キロ以上離れた東京にも影響があった。六本木ヒルズの高層ビルは大きく揺れ、そのエレベータが停止したのだ。それは表面波による長周期地震動が原因であった。

 観測値から表面波の流れを見ると、南下してきた表面波が東京の国分寺周辺で東に約90度曲がって都心方面に向かっている。これは表面波が堆積層の形に影響を受けて、光のように屈折したためだ。関東平野の下は堆積層が大きな“すり鉢状”になっており、表面波はまるでスケートボードのように、そのすり鉢状のカーブに沿って曲がる。その表面波とまっすぐ南下してきた表面波が都心で重なり、六本木ヒルズなどの高層ビルに影響を与えた。

左図は新潟中越地震の観測データから作成した表面波の図。右図は同地震の震源情報、新潟から東京の地殻情報を元に地球シミュレータで表面波をシミュレーションした結果

 東京大学地震研究所の古村孝志助教授は、新潟中越地震に関する震源や地殻に関する情報を、スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」に入力して、シミュレーションを行った。その結果、表面波が東京の国分寺周辺で、カーブを描いて都心へ向かっていく様子を再現した。

 「地震の揺れを正確に把握できれば、そのデータを参考に耐震対策を行うことで災害軽減に役立てられる。その一つの手法としてコンピュータシミュレーションは非常に有効」(古村助教授)

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