圧倒的な躍進を遂げるグーグル<後編>グーグルの躍進とマイクロソフトの転身 第2回

モバイルインターネットの領域に力を注ぐグーグルの動きに呼応するように、ヤフーが検索と広告で端末ベンダーとの連携で同様の戦略を進めるなど、グーグル以外のインターネットサービス企業もモバイルでのサービス拡大を積極的に進めている。

» 2006年08月30日 08時00分 公開
[成川泰教(NEC総研),アイティセレクト]

イーベイ、アマゾンも

 ECサービスにおいては、イーベイが、中核事業である決済プラットフォームを手掛ける子会社のペイパルで携帯電話のメール機能を使って利用できるサービス「ペイパルモバイル」を始めることを発表した。全世界で1億人以上のユーザーを持つ電子マネーサービス「ペイパル」が携帯電話にも拡大することは、NTTドコモの電子マネー/クレジット事業参入(8月11日の記事生活経済におけるデジタル諸相2[貨幣のデジタル化とデジタルエコノミー] 第1回:新局面に突入する電子マネー市場参照)との対比で考えると非常に興味深い。ペイパルがEC決済だけをターゲットにしているのではないことは明らかだ。

 アマゾン・ドットコムも、日本においてモバイルに積極的に力を入れている。携帯電話から決済が利用できるようにしたほか、商品レビューの投稿や書籍の中身検索、携帯サイト向けのアフィリエイトサービスなどをスタートしている。日本国内では、05年度のモバイルサイト経由の売り上げが前年の3倍となったことから、売り上げ拡大に大きく貢献しているという。

キャリアをも巻き込む争いに

 5月に、国内モバイルキャリア第2位のKDDI(au)がグーグルと提携を発表したことは記憶に新しい。これにより、auが提供する携帯電話向けインターネットサービス「EZweb」でグーグルの検索エンジンが採用され、「EZweb」のトップページにグーグルの検索ボックスが表示されるようになる。発表の席では、両社は今後共同で提供できるサービスの可能性について、さらに検討を進めていくとした。

 日本のモバイルインターネットは、NTTドコモの「iモード」を代表に、キャリア3社がそれぞれ端末からサービスまでを取り仕切る、垂直統合型のビジネスモデルで発展してきた。グーグルの参入は、その一角を崩すことになる。そう考えると、今回の提携が意味するところは大きい。

 図らずも国内モバイルキャリア第3位のボーダフォンがソフトバンクに買収され、「Yahoo!!! JAPAN」のサービスがモバイルキャリアのサービスとしても展開される見通しとなった。ドコモ自身も検索において、NTTグループの検索サービス「goo」をはじめグーグルを含めた複数社との提携で、新たなサービスを行うことを表明した。日本のモバイル市場は、その競争構造における水平分業的様相が強まる状況に突入したといえる。

 モバイルでのインターネットサービスが、海外でも日本と同様の広がりを見せるのか、また日本においてそれがどの様な展開をたどるのかは、現時点では見極めが難しい。しかし少なくとも、今後その種のサービスがキャリア単独で推進される状況でなくなってきていることは、間違いないようである。

ヤフー&イーベイ提携の衝撃

 PCからモバイルへと拡大するインターネットサービス市場で競争にしのぎを削る各社だが、業績面でのグーグルの独走に、ライバル各社は焦燥感を強めている。そうした矢先に発表されたヤフーとイーベイの戦略提携は、驚きと必然の入り混じった思いで迎え入れられた。

 提携内容は、当初は米国市場に限定したものになっているとはいえ、検索からオンライン決済システム、ツールバーの共同リリース、ネット広告での連携にまで及び、事実上の事業統合ともいえる全面的なものだ。

 広告では、イーベイのサイトにヤフーが独占的に提供するほか、イーベイの検索結果の一部に検索連動広告を取り入れる。またヤフーの検索で、イーベイで売買されている商品に関する情報をリアルタイムで提供するための協力にも合意している。さらに決済で、ヤフーが「ペイパル」を独占的に採用し、利用者が「ペイパル」を使ってヤフーの各種サービス料金を支払えるようにするほか、ヤフーのサイトに出店するECサービスのさまざまな決済にも利用できるように、ユーザーや販売業者向けへの拡販を行うとしている。

 実質的なスタートは07年からとなる今回の提携は、ヤフーの広告事業とイーベイの決済事業を中心に、双方に少なからぬ増収効果をもたらすと予想される。お互いの強みを補完し合う形となるその目的は、明らかにグーグルへの対抗であり、インターネットサービスにおける競争構造は新たな段階に入ったといえるだろう(「月刊アイティセレクト」掲載中の好評連載「新世紀情報社会の春秋 第六回」より。ウェブ用に再編集した)。

なりかわ・やすのり

1964年和歌山県生まれ。88年NEC入社。経営企画部門を中心にさまざまな業務に従事し、2004年より現職。デバイスからソフトウェア、サービスに至る幅広いIT市場動向の分析を手掛けている。趣味は音楽、インターネット、散歩。


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