通学安心システムが目指す「正常な地域環境」とは――岐阜県岐南町驚愕の自治体事情(3/3 ページ)

» 2006年10月24日 08時00分 公開
[田中雅晴,ITmedia]
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導入に至るまでの障害と対策は?

 同システムを導入するに当たり、現在岐南町では各小学校への説明会や懇談会などの場を設けて保護者の理解を得るための活動に力を入れるとともに、想定しうるさまざまな問題点への対策も議論している真っ最中である。いざ導入するとなると、やはりいいことずくめではないようだ。

 まず問題となるのは、個人情報保護の問題。無線LANによるネットワークを使用する以上、個人情報漏えいのリスクは無視できない。これに対しては、1つ1つのIDに対して割り振られる識別名に、個人名ではなく登録時に保護者が希望したニックネームを使用することでIDと個人が紐づかないようにしている。

 利用者側のコスト負担も問題として挙げられていた。タグリーダーや無線局などのインフラ整備やランニングコストは町側が負担するが、児童1人1人に配られるICタグに関しては、当初、1500円(1個当たりの単価の半額に相当)を利用者側に負担してもらう方向で計画を進めていた。しかしこうしたコストに同意できない世帯も出てくるのではないかという懸念があった。

 ところがこれは、その後VRテクノセンターから提出されたシステム全体の見積もりにおいて、当初よりも大幅な費用削減が実現されていたため、町側がすべて負担することになった。なお、タグリーダーの電池の寿命は約1年半だが、電池の交換費用200円程度のみは負担してもらう予定だという。

 それでも、セキュリティに関する疑念や、「徹底的に悪意を持った人間」による悪用の恐れからの拒否反応や、あるいは単純に「ウチは別に要らない」という判断などが今後の説明会などを通じて出てくることは十分予測される。岐南町では、こういった懸念や個人情報保護の観点から、「導入はあくまでも強制ではなく任意。希望のあった児童にのみ利用してもらう」という方針だ。

地域社会の安全は、ITによって守られるのか?

 全国に先駆けて登下校確認システムを導入することを決めた岐南町。しかし、片桐町長は「これはあくまでもシステムでしかなく、結局は、地域全体で高い意識を持って子どもたちを見守る『目』が重要」と常々周囲に話しているという。

 実際岐南町では「子どもを守る会」なども以前から組織され、そろいのユニフォームを着た大人たちが交代で通学路周辺を見回るなどの活動も行われるなど、地域社会の安全に対する意識は比較的高い。

 しかしそれでも、池田小学校の事件以来、町内の3つの小学校のうち2校は、通用門は登下校時以外は閉ざされている。唯一西小学校だけは、隣に神社が位置しており、地域の人が中を通って参拝することが慣例と化しているため開放している。しかし、「これこそが本当の学校のあるべき姿」と森課長は話す。

 同氏は続けて、「学校というのは、本来地域に開放されているべき存在。その中で、地域の人に見守ってもらう。地域の人もそうした意識を持って子どもたちを見守る。それが健全な地域社会ではないか」と話し、今回発表したシステムを発表し定着させることで地域社会の意識が高まり、また、周辺地域に対する啓もうにもなればいいと考えている。「さらにその結果、正常な『開放された学校』の状態に戻れたら……」。


 ITによっていかなるシステムが作られようと、それを作るのも使うのも、それによって変わるのも、すべて人間。通学安心システムが目指すのも、結局はそんな「人間を中心とした正常な地域環境」なのかもしれない。

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