中国の競争力を支えるハングリー精神、アルパインは製品開発もパワーシフト(2/2 ページ)

» 2006年11月22日 08時00分 公開
[浅井英二,ITmedia]
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 瀋陽といえば、中国でも最も寒い地域のひとつで、かつては重化学工業の国営企業が集積している地域として知られたが、外資の導入で潤う上海周辺の長江デルタ地帯などに比べると取り残されている感は否めない。

 「だからこそ、新しいやり方が必要だった。東北大学から確保できる優れた人材を十分に生かすために、北京や上海以上に良い環境を整えたかった」(劉氏)

 瀋陽郊外に建設された50万平方メートルの広大なソフトウェアパーク内には、オフィス棟のほか、住宅や社員寮、ゴルフ練習場、ダンスホールなどもある。

 「ソフトウェアは、およそすべての家電製品に入っていて、そのライフサイクルも短くなっている。需要は旺盛で人手は足りず、エンジニアは毎日終わらない仕事に終われている。だから、オフィスを“パーク”にして、社員がリラックスできる環境を整えないといけない」と劉氏は話す。

 ハードウェア環境の整備だけでなく、Neusoftで働くエンジニアの将来像をきちんと描き、そこに到達するための勉強やトレーニングの機会も十分に提供している。英語や日本語といった語学を学べるし、途中から大学に戻って修士号や博士号を取得する機会も与えているいう。

明確なキャリアパスでやる気を引き出す

 Neusoftでは、キャリアパスも明確に示している。

 大学を卒業して入社すると、最初の3年は「プログラマー」。3年から5年で「シニアプログラマー」となり、5年目以降は「ソフトウェアエンジニア」「シニアソフトウェアエンジニア」と階段を上がっていく。さらに経験を積んでいけば、「プロジェクトリーダー」や「アーキテクト」「コンサルタント」の道も開ける。

 中国のエンジニアには、自分の生活を変え、そして両親や兄弟の生活も変えていきたいというハングリー精神があると劉氏は指摘する。

 「大学生の50〜60%は農村出身者。すべてを犠牲にして子どもを大学に進学させる家庭もある。学生はそうした期待を背負っているため、大学が出たら恩返しをしなければならないという責任感もある。都市に出てきた以上は、自分や家族の生活を変えたいという強い思いがある。先進諸国よりも中国の競争力が高いのは、そんな背景がある」と劉氏。

 多くの日本の製造業がその製造拠点が中国に展開しており、製品に組み込まれるソフトウェアの開発も中国へシフトし、開発と製造を一体化させる傾向が強まれば、日本のソフトウェア産業はますます空洞化が進んでしまう。

進む研究開発のパワーシフト

 実際、アルパインのように製品開発を中国にパワーシフトするメーカーも少なくない。同社は、大連の大学4校で「アルパイン・クラス」と呼ばれるクラスまで開設し、現地の優れたエンジニアの確保に努めている。さらには、デジタル家電や携帯電話、車載関連機器などの組み込みソフトウェア開発の需要が今後拡大するとして、主要な大学に組み込みソフトウェア学科を設置するよう、大連市政府に提案しているという。

 アルパイン電子の大連R&Dセンターで意匠設計部長を務める佐々木正人氏は、「大学を卒業して入社する中国のエンジニアは、基礎的な能力は持ち合わせているし、スキルを早く習得したいという意欲も強い」と話す。彼は今春、同社の研究開発の拠点である福島県のいわき事業所から大連に赴任したばかりだ。

 「ただし、製品は使う立場での設計が必要になる。その点、中国はクルマ社会の歴史が浅い。そこが弱点になるかもしれない」と佐々木氏。アルパイン電子では、日本人やクルマ社会に対する理解を深めてもらうために中国のエンジニアを日本に派遣しているという。

 アルパインは、技術的に確立された製品の設計開発は、作業化して中国にシフトするが、ドライブアシストのような近未来の製品の研究開発は日本の拠点に残すという。日本のエンジニアの進むべき道を示しているかもしれない。

大連市郊外のソフトウェアパークで話を聞いたアルパイン電子 大連R&Dセンターの副総経理兼管理部長、波佐間雅光氏(左)と意匠設計部長の佐々木正人氏
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