速度よりもサービス――無線BBの急先鋒、WiMAXがもたらすもの無線LAN“再構築”プラン(1/3 ページ)

WiMAXは、最大75Mbpsの通信を可能にする無線ブロードバンド技術として注目を浴びている。有力な通信事業者が参入を決めるが、その高速インフラを活用したビジネス、サービスの具体像はなかなか見えてこない。その最新動向を追った。

» 2006年11月24日 08時00分 公開
[井上猛雄,ITmedia]

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 WiMAX(World Interoperability for Microwave Access)は、IEEE(米国電気電子技術者協会)で標準化作業が行われている高速無線ブロードバンド技術だ。従来の無線LANが100m以内の狭いエリア内を想定した技術であるのに対し、WiMAXは半径数キロメートルのMAN(Metropolitan Area Network)において、最大75Mbpsの無線ブロードバンドを実現する技術だ。

画像 WiMAXとほかのワイヤレス技術の位置付け。半径数キロメートルのMANにおける高速無線ブロードバンド技術がWiMAXである

 WiMAXには、IEEE 802.16-2004をベースとした固定通信向けと、ハンドオーバー(基地局移動)や省電力の仕様を追加したIEEE 802.16eをベースとするモバイルWiMAX(IEEE 802.16e-2005)の2種類の規格がある。固定通信では、基地局と宅内などに設置した端末の間を無線でつなぐFWA(Fixed Wireless Access)での利用を想定しており、ADSLなどのブロードバンドアクセス回線の代替となるもの。一方、モバイルWiMAXでは、移動しながらブロードバンドアクセスを実現し、現行の携帯電話のインフラを補完するメリットがある。

 IEEE 802.16および16eの規格化はすでに完了しており、現在これらをベースにワールドワイドでの利用促進を目的とした業界団体「WiMAX Forum」が活動している。同フォーラムは、WiMAX標準化へ向けて、システムを相互接続できるようにプロファイル(パラメータ)の策定や、機器の認定認証を推進している。フォーラム会員数も急増しており、現時点で各国のメーカーや通信事業者など400社以上が加盟。インテルやノーテルネットワークス、モトローラなど、名だたる企業がWiMAX商用化の実現に向けて動いている。このように、ワールドワイドな展開が図られている点もWiMAXの1つの特徴だろう。

 米Yankee Groupによる予測によれば、ワールドワイドのモバイルWiMAX市場は、2010年で1900万人、2011年に2770万人規模になるという。また、2011年の段階では、アジアおよびアジア太平洋地域におけるユーザー数を810万人と予測している。北米では780万人、欧州・中東・アフリカ地域では890万人に達する見込みだ。

韓国、北米でも広がりみせる

 海外のWiMAXの動向をみると、アジアでは国策としてモバイルブロードバンドに注力している韓国が一歩先を行く状況だ。KTがソウルの一部において、韓国版モバイルWiMAXサービスとして、「WiBro(ワイブロ)」サービスをすでに開始している。

 WiBroは2.3GHz帯を利用し、移動中でも音楽や動画などの大容量データをやり取りできる高速通信(下り3Mbps/上り1Mbps)をサポートする。KTは、コミュニケーション、マルチメディア、データを利用できるモバイルトリプルプレイをベースとしたサービスを提供しており、WiBroを実体験できるように定期バスを運行し、車上でWiBroをアピールしている。とはいえ、本格的なWiBroサービスの展開は2007年以降になる模様だ。

画像 韓国KTが進めるWiBroのサービスの一例。コミュニケーション、マルチメディア、データを利用できるモバイルトリプルプレイをベースとしたサービスを提供

 また北米でのWiMAXの動向については、日本と同じ2.5GHz帯でモバイルWiMAXを展開する有力事業者として、Sprint NextelやClearwireなどが注目される。前者はWiMAXを使った4Gサービスの計画を発表しており、後者は半固定の無線インターネットサービスを提供中だ。特にClearwireは、欧米でWiMAXに特化したサービスを展開する事業者として、海外3都市を含む31地域で16万2000人のユーザーを集めている(2006年9月時点)。

 ひるがえって国内では、現在WiMAXへの参入を表明している通信事業者は、KDDI、ソフトバンク、イー・アクセス、アッカ・ネットワークス、NTTドコモ、YOZAN、嶺南ケーブルネットワークなど数社が挙げられる。日本ではモバイルブロードバンドの周波数帯として2.5GHz帯(WiMAXに対応する各国の周波数帯を大別すると2.5GHz、3.5GHz、5GHzがある)を利用することが検討されているが、すでに総務省より実験無線局の免許を取得し、実証実験を済ませている事業者も多い。

 これら国内事業者のうち、もっともWiMAXへの参入が早かったのはKDDIだ。同社は2003年からWiMAXの標準化にかかわっており、WiMAX Forumのボードメンバーにも選出されている。実証実験も2005年春に大阪で開始しており、無線LAN、EV-DOなど、さまざまなネットワークをシームレスに統合するオールIPベースの「ウルトラ3G実証システム」との接続にも成功。現在は基礎実験を終え、アドバンス技術としてアダプティブアンテナやMIMO(Multiple-Input Multiple-Output)などによる次のトライアルを始めている。

 イー・アクセスは先ごろ松下電工とともに、屋外実証実験用のモバイルWiMAXネットワークを利用した「子ども緊急通報装置」の実験を行った。緊急通報装置とネットワークカメラを接続して、音声や静止画、動画の伝送性能などを検証、WiMAXを利用した新しいサービスを提示している。NTTドコモでは、今年の3月に実験局免許を申請し、隣接する衛星通信システムとの干渉について評価などを行っている。ソフトバンクは、2005年秋に3G携帯電話システムとWi-Fiとのハンドオーバー実験に成功し、この9月からネットワーク規模を拡大して実験中だ。

 また、アッカ・ネットワークスのように携帯電話網を持たない事業者も、モバイルWiMAXの実証実験を積極的に進め、この分野への新規参入を狙っている。嶺南ケーブルテレビでは、11月より地方でのモバイルWiMAXの実験を開始する予定だ。一方、独自の展開をしているのがYOZAN。電波免許が不要な4.95GHz帯を利用した固定WiMAXサービスを2005年12月からいち早く開始。ここにきて同社は、4.95GHz帯のWiMAX基地局を2.5GHz帯にも対応させる準備を終了したとアナウンスしている。なお同社は、MIMOを搭載したトライバンド型(2.5/3.5/4.95GHz)のモバイルWiMAX用受信機の開発も従来どおり進めていくという。

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