「どうして頑張るの?」に答えられるか企業にはびこる間違いだらけのIT経営:第23回(2/2 ページ)

» 2007年01月23日 09時00分 公開
[増岡直二郎,アイティセレクト]
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無責任な激励なら言わないほうがマシ

 「頑張れ」の例も挙げておこう。

 上司「頑張れ!」、部下「はい」…なんと無責任なやり取りだろう。

 ある部長などは昇給査定会議席上で「何某君は頑張っているので、査定点を積んで下さい」と訳の分からないことを主張する。さすが上司は「みんな頑張ってるんだ」と諭す。こんなことだから、上司は何を頑張らせ、部下は何を頑張ればよいのか分かるはずがない。

 「頑張れ」と言うからには、その方法論を示すのが言った者の責任であろう。例えば「頑張る」ためのチャンスを与え、動機付けをし、あるいは具体的方法を示すべきだ。

 これも筆者の経験である。ある量産工場で、常に無視されていた非量産生産管理をコンピュータ化したいというのが、関係者の永年の夢だった。日頃の周囲の「頑張れ」という無責任な激励の中、あるときF工場長は、非量産生産管理のコンピュータ化にトライしてみろと示唆した。その後、Fは本社への投資うかがいの面倒をよく見てくれた。しかし、認可された後が大変だった。システム部門は、傍流の開発に対しては協力してくれないことが多い。非量産関係者は、何から何まで自力でやらなければならなかった。昨日まで工程や倉庫担当だった若者達を研修会に派遣して、SE・オペレーターに養成した。現場事務で走り回っていた女性をシステム部門で実習させ、パソコン操作要員に育てた。こうして、何とか非量産生産管理システムを立ち上げることができた。Fが常に無言の支えになった。

 さらに後日談がある。G部長は、実行力があり迫力のある人だった。製造現場で非量産生産管理システムが稼働を始めたが、ご多聞に漏れずシステム定着に苦労した。工程マンや倉庫マンが、手書きの進度表や在庫管理表をどうしても手放せず、鉛筆で塗りつぶしをしていた。「頑張れ」という無意味なエールが行き交っていた。Gは時間があると現場を巡回し、手書き表で管理をしている担当者を見つけると、鉛筆を取り上げ、目の前でへし折って見せた。担当者はその迫力に押された。間もなくシステムは定着した。

育てる文化はこうして作れ

 以上に示した諸例が、次のことを示唆している。

 良くあることだが管理者の間で部下の欠点を話題にしてあげつらうのではなく、部下の欠点が何で、それを補うためにどういう教育をすべきかを議論する。自部門だけの都合に捉われずに全社的見地から人材の教育や有効活用のためのローテーションについて意見交換をする。そしてそれを実行する…、そういう積み重ねが永年続くと、企業の中に「人を育てよう」とする「無形の雰囲気」が根付き、やがてそれはその企業のDNAとなり、企業文化として定着するようになる。

 一方、「頑張る」という概念が不明確のまま、頑張らせたり、頑張ったりしても、結果は期待からおよそ遠くなる。何を、どのように頑張り、何を期待するのか、を議論しながら明確にすると、頑張る方法を提示できるようになる。

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