パソコン需要掘り起こしの「起爆剤」と期待されている「ウィンドウズビスタ」。もしかすると、パッケージOSとしては最後の…なんていう可能性もなくはない。
昨年のPC不振の理由として、マイクロソフトの新OS「ウィンドウズビスタ」の発売に向けた買い控えを挙げる意見は多かったわけだが、1月に同商品が発売されて時間が経過するにつれて、その実体は徐々に明らかになってきている。現時点での最新の販売データを見る限り、従来の新OSとは大きく様子が異なる展開になっているようだ。
ウィンドウズビスタが今後新しく出荷されるPCのメインOSとして、市場でそのシェアを上げていくことは間違いない。しかし、そのスピードはこれまでとはかなり異なるものになるだろう。
マイクロソフトが、インターネットをプラットフォームとしたアプリケーションサービス体系である「Live戦略」を推進していることは、以前に取り上げた(9月1日の記事参照)。2年ほど前からウィンドウズビスタの発売延期が取りざたされ、一方で同社のLive戦略が急進する状況を見て、ウィンドウズビスタはもしかしたら発売されないのではないかと真剣に考えた時期もあった。
ウィンドウズビスタを単体で購入して従来のPCにインストールしたユーザーに聞くと、何人かが気になるとしたのはその「重さ」だという。それもそのはずで、ウィンドウズビスタはLive構想のはるか以前から脈々と連なるOSの開発ロードマップに則った製品である。しかし、この数年間のインターネットの普及拡大は、そこに盛り込まれた高度なテクノロジーの数々の役割を、クライアントではなくサーバ側に置くというスタイルに変えつつある。
ウィンドウズビスタを「最後の戦艦」とするのは時期尚早かもしれないが、少なくとも今後リリースされるOSは、アプリケーションの実行環境のかなりの部分をウェブに譲り、カーネルのような本質的機能を中心にしたものになっていく方向が予想される。そうなればハードウェアとの一体化が進み、PCの姿は、ちょうど任天堂の「Wii」やソニー・コンピュータエンタテインメントの「プレイステーション3」など現在の最新ゲーム機に近いものになっていくのかもしれない。
アップルは社名から「コンピュータ」を外すことで、「春」を謳歌する戦略に打って出た(3月30日の記事参照)。家庭用ゲーム機においてもインターネットのサービスを取り込む動きが活発化しつつあり、ビジネス市場でもシンクライアントのようなソリューションが注目を集め始めている。PCベンダーにとっては頭の痛い課題ではあるが、ことの展開は意外と早く訪れるのかもしれない(「月刊アイティセレクト」掲載中の好評連載「新世紀情報社会の春秋 第十四回」より。ウェブ用に再編集した)。
※本稿の内容は特に断りのない限り2007年3月現在のもの。
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なりかわ・やすのり
1964年和歌山県生まれ。88年NEC入社。経営企画部門を中心にさまざまな業務に従事し、2004年より現職。デバイスからソフトウェア、サービスに至る幅広いIT市場動向の分析を手掛けている。趣味は音楽、インターネット、散歩。
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