「アプリケーションが遅い」をなくす仕組み(2)最適化から始まる、WAN高速化への道(3/3 ページ)

» 2007年06月12日 08時00分 公開
[岩本直幸、中島幹太,ITmedia]
前のページへ 1|2|3       

WAN高速化の得手、不得手

 次に、ファイル共有以外のアプリケーションについても説明しておく。アプリケーションといってもさまざまなものが存在するのでここですべてを紹介できないが、代表的なアプリケーションとその特徴からWAN高速化が行えるかどうかについて見てみよう(図3)。

図3 図3●WAN高速化装置の得手/不得手

 まず、ファイル共有技術で触れた「やり取り」の種類について分類する。チャッティ(おしゃべりな)ファイル共有技術にはWindowsファイル共有(CIFS)やNFSなどがあるが、これらと同様にやり取りが多いプロトコルとして、リレーショナルデータベースで使われるSQLが挙げられる。

 業務アプリケーションのWeb化が進み、HTTP/HTTPSによるアクセスが一般化している一方で、開発環境ではWAN上にSQL通信が直接流れるケースも多い。これはOracle/DB2/Sybase/SQL Serverなどに共通しており、一部では対応しているWAN高速化装置もある。ただし現実的には、単純にSQLといっても環境によってカスタマイズが必要になる場合が多く、特定のアプリケーションに限定したサポートとなっている。こうした一部対応という点を除けば、WAN高速化装置が一番苦手とする分野の通信であると言える。

 また、バースト的な転送が可能であるアプリケーションも多く、FTP/HTTP/HTTPS/Notesなどがこれに該当する。このような通信では、WAN高速化装置が特別な機能を持っていなくても効果が出るものが多い。

 一方、高速化するファイルのデータ容量という点で高速化装置を見ると、キャッシュや圧縮、ウィンドウサイズの拡張といった機能を有効に機能させるためには、ある程度大きなデータである必要がある。つまり、ファイルサイズが極端に小さいファイルの場合、WAN高速化装置では効果が出にくいことが多い。これはファイル共有にも言えることだが、HTTP/HTTPSなどでは小さいパーツの集合体になると効果が得られないことが多い。

 このようなケースでは、WAN高速化装置がオブジェクトを事前に取得してURLを学習する機能を搭載していれば、拠点側の装置からデータを取得できるようになるため、小さいパーツであっても高速な画面表示が行える。リバーベッド製品がこの機能を搭載している。

 セキュリティの強化という観点から、ファイルサーバの統合に始まり、NotesやExchangeなどのメールシステム統合までを行うユーザーが多くなっている。このような流れを受けて、HTTPSの高速化にも注目が集まり、「SSLアクセラレータ」という分野の製品も登場した。この製品の主目的はサーバの負荷軽減であり、ユーザーレスポンスの向上ではないが、セキュリティ強化により生産性が低下してはバランスが取れないため、WANを介したHTTPSの高速化機能を持った製品も増えてきている。HTTPS高速化機能を搭載した製品としては、ジュニパーネットワークスやリバーベッドの製品がある。

導入の容易さ、モバイル対応が今後の要件に

 WAN高速化製品は、セキュリティ強化を目的としたセンター統合という企業の課題の中で、アプリケーションの高速化により生産性向上を図る重要なツールになりつつある。

 しかし一方で、このソリューションでは高速化できないアプリケーションもある。あるいは、1台ではすべてをカバーできていない製品もあるので、その点は念頭に入れておくべきだ。装置が増えればそれだけネットワークダウンの危険性が増すことになるため、可能なかぎり1台にさまざまな機能を集約することが望ましい。また、端末のモバイル化が進む中で、ノートPC、PDAといった端末側にも、WAN高速化機能を搭載して、場所を選ばず業務を遂行できる生産性の高さが求められるだろう。

 今回、主要なベンダーとして、シスコ、パケッティア、F5ネットワークス、リバーベッド、ジュニパーの製品を比較しながらWAN高速化の仕組みを説明してきた。今後もこれら5ベンダーが市場の牽引役として自社の持ち味を生かした製品をリリースしていくことが予想されるが、高速化装置の今後の要件として、次のような点が考えられる。

WAN高速化ソリューションの今後の要件

  1. セキュリティを考慮した製品:ファイルを拠点に配置しない
  2. 既存環境への容易な導入:ネットワークやアプリケーションの変更を伴わない
  3. モバイルに対応した製品:いつでもどこでもLANと同等のアクセスが行える
  4. ユーザーが使いやすい環境を提供:ユーザー側はどのサーバの、どのフォルダへのアクセスかは意識しない
  5. 導入や運用が容易:運用を容易にするシンプルなアーキテクチャー


関連キーワード

WAN高速化


前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ