日本のユニファイドコミュニケーションが遅れているわけITアナリストに聞く

市場は盛り上がりつつあるが、日本でユニファイドコミュニケーションが普及するためには、いくつかのハードルを越える必要がある。

» 2008年01月26日 01時40分 公開
[伏見学,ITmedia]

 2007年10月に米Gartnerが発表した予測によると、今後3年間で企業のITや業務に大きな影響を与える戦略的技術の1つが「ユニファイドコミュニケーション(UC)」だという。同社によると、UCとは「さまざまなコンタクト手段とインタラクション手段を統合させたもの」である。

 マイクロソフトの統合コミュニケーション製品「Office Communications Server(OCS) 2007」のリリースなどで、昨年末から盛り上がりをみせているUC市場。最近の動向をガートナーのITアナリストに聞いた。

ガートナー・ジャパンの堀勝雄氏 ガートナー・ジャパンの堀勝雄氏

エコシステムの構築

 「2007年の最大のインパクトは、OCS 2007の登場だ」とテレコム/ネットワーキング担当の堀勝雄氏は話す。数年間沈黙を続けていたUC市場に再び火がついたという。日本だけでなく、北米でもOCSに対する期待は高かった。特に、WordやExcelなどMSアプリケーションとコミュニケーションツールの連携は高く評価された。

 2007年の総括として、堀氏は機能強化、統合化、モバイル対応の3点を挙げた。機能面では、プレゼンス機能や管理機能が改善し、音声・映像の品質が向上した。統合化では、コミュニケーションツールとPBXの連携や、会議システムとの連携が進んだ。従来は自社製品を垂直統合していたが、他社との連携による水平統合の動きが出てきた。

 具体的には、米Cisco SystemsがWebベースのビジネスコラボレーションツールを開発する米WebEXを買収したり、米IBMがWebカンファレンスソフトウェア会社の米WebDialogsを買収するなどしてUC製品との連携強化を図っている。堀氏は、複数の企業が協調的に活動して業界全体を発展させていこうとする「UCのエコシステムができつつある」と説明した。

 一方、OCSなどのUCプラットフォームは、海外と比べ日本ではまだシェアが高くない。2008年は各企業とも検討段階で、まずはベンダーが提供する先行事例を見てから、トライアルで導入していくという。

 「OCSの登場によって日本市場がどの程度刺激されるか注目している。劇的に変わることはないが、市場は立ち上がりつつある。そういう意味で、今年はUCの“トライアル元年”といえる」(堀氏)

鍵を握るモバイル

 今後の動向はどうか。堀氏は「引き続き、機能強化、連携強化、モバイル対応が進む」とみる。中でも鍵を握るのはモバイルだという。企業向けスマートフォンでは「BlackBerry」が北米を中心とした海外で業種・職種にかかわらず広く使われており、UC製品との連携に対する期待感が高い。日本でもスマートフォンの利用者は増えつつあり、マイクロソフト「Microsoft Office Communicator Mobile」、日本アバイア「Avaya one-x Mobile」などUC対応のモバイルソフトウェアが相次いで発売されている。「(ビジネス上での)モバイル活用がUCの普及を促進する」と堀氏は分析する。

 これまでも、社外からスケジュール管理などをする上でモバイルでグループウェアを操作するビジネスマンは多かったため、普及の材料はそろっているといえる。

日本はいまだ垂直統合

 ただし、海外と比べて日本企業のUCへの意識は低い。ガートナーの調査では、北米の中小企業のうち約10%が既にUCを導入している。別の調査では、日本企業のうち10%がUCの導入を検討している段階という。日本が遅れている一因として、堀氏は「NEC、富士通、日立製作所、沖電気工業のPBX大手4社が製品連携に消極的」と強調した。UCを提唱しているものの、他社とパートナー提携するのではなく自社で完結しようとする垂直統合型の傾向が強く、UCに対する積極性は足りない。PBXベンダーだと、電話のIP化を進めるのがコア事業になるので、音声を中心に考えてしまいメールやIMなどアプリケーションとの連携は二の次になってしまう。

 「沖電気が発表したUC戦略でも、アプリケーション連携の部分はあまり見られなかった」(堀氏)

 対照的に、外資はUCを使ったビジネスプロセスを重視するため、PBXベンダーやソフトウェアベンダーなど関係なく積極的に水平統合を促進しているという。

 日本でもUCは粛々と進んでいるが、広く普及するためには各ベンダーの連携が必要不可欠である。

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