人事評価を通じて上司部下の人間関係の改善、各社員の成長機会の増加などが図れる。社員を育てるにはどうすればいいか。人事戦略コンサルタントが提言する。
「中堅中小企業のタレントマネジメント戦略」と題して、米大手コンサルティングファーム、ベリングポイントの組織・人事戦略コンサルタントが、日本の中堅中小企業を取り巻く事業環境や人材マネジメントの潮流を踏まえ、戦略からIT活用に至るまでさまざまな観点から具体的なアドバイスを提供する。第3回は中堅中小企業における評価制度設計の進め方について提言する。
「人事評価制度は、給与や賞与を決めるためだけのものではない」
第1回で述べたように、人事評価制度はトータルリワードを高め、従業員のエンゲージメントを実現するための有効な手段である。評価の妥当性向上による納得感の高まりと、評価制度によるさまざまな領域での改善効果が、従業員のエンゲージメント実現の重要な要因となるからである(エンゲージメントについては第1回および図1を参照)。
例えば、人事評価を通じてフィードバックをする文化ができることによる上司部下の人間関係の改善、各社員の成長機会の増加などが考えられる。経営理念や人材ビジョンに基づく評価基準を明示して社員に明示することで、組織への共感も高められる。
人事評価制度は人材マネジメントの中核に位置付けられる。人事評価制度に問題を抱えていると、人材マネジメントに多くの悪影響を及ぼす。下記はある会社の人事制度改革の際に検討した資料である。
人事評価制度に不備があることで、賃金、配属・異動、人材育成・キャリア開発、企業文化に至るまで、さまざまな領域に問題を引き起こしているのが分かる。そこで、制度構築に当たっては、経営者および多数の従業員の参画が不可欠である。人事評価制度を作る際には次のステップで進めるといい。
各ステップのポイントを述べていくことにする。
初めて人事評価制度を導入する理由はさまざまある。例えば「上場に向けたマネジメントの体制を強化したい」「社長のわたしが何も言わなくても社員が自律的に行動してほしい」「業績をあげる社員のモチベーションを向上したい」といった具合だ。
一方で、既存の人事評価制度を改訂したいという中堅中小企業の経営者に悩みを聞いてみると、成果が上がっていない、何のためにやっているのかわからないという悩みを聞く。この違いに着目したい。導入当初には明確な目的があったのに、導入後はその目的を忘れてしまっているのだ。いや、導入より前、制度を設計する段階で当初の目的を失っているケースも多く、明確な目的もなく制度を導入している場合もある。
人事評価制度を導入する際には「導入の目的」を明確にすることが重要だ。設計時にも運用時にも常にそれを意識しなくてはならない。言い換えれば「どのような効果を生み出したいのか」を導入の目的として掲げたら、制度を作りこむ際も、実際に運用をしている間もずっと、その目的を持ち続けておく必要がある。
人事評価制度はエンゲージメントの多様な要素に影響を与える。そのため、給与や賞与を決めることだけを目的としてはならない。次に掲げるような例を参考に、評価制度の導入の目的を、もう一度明らかにすることを推奨したい。
人事評価制度の目的(例)
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