作業工数は従来比6割減――実証実験で抜群の結果を残したOpenXML

OpenXMLに用いた大規模システムの相互運用性実証実験が行われた。作業工数6割減という成果もさることながら、中小のISVが下請けでない形で案件に加わることができる可能性を示したという点で、今回の実証実験は大きな意味を持つ。

» 2008年07月31日 13時49分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 Windows + Servicesコンソーシアム(wipse)とマイクロソフトは7月30日、OpenXMLの相互運用性に関する実証実験を7月25日および28日、29日の3日間にわたり実施、その結果を明らかにした。複数のソフトウェア企業によるビジネスシナリオに即した形でのOpenXMLを用いた相互運用性実証実験は世界初。


加治佐俊一氏

 マイクロソフト業務執行役員の加治佐俊一CTOは、今回のような相互運用の実証実験を行う意義を次のように説明する。

 「ソリューション/サービスが相互に連携する必要性をいまさら語るまでもないが、そこにおいてポイントとなるのがプロトコルやデータフォーマットが標準化されていること。OpenXMLは紆余(うよ)曲折はあれど、Ecma(欧州電子計算機工業会)やISO/IEC(国際標準化機構 国際電気標準会議)で標準化されたことでこの条件を満たした。それ故、次のフェーズとして相互運用/相互接続に向けた実装や、今回のような実証実験を示すことで、具体的なビジネスを目指した展開の第一歩としたい」。


ビジネスシナリオに即した実証実験

 今回の実証実験は、wipseの分科会の1つであるOpenXML分科会のメンバー企業から4社(アドバンスソフトウェア、アプレッソ、グレープシティ、スカイフィッシュ)が参加、これにマイクロソフトを加えた5社で行われた。

セールスマンが入力する情報はさほど多くない。GPSデバイスを用いれば、位置情報などの入力の手間も省ける

 ビジネスシナリオとしては、自動販売機設置業務を手掛ける企業を想定。設置場所を探して都内を駆け回るセールスマンが設置場所候補の情報(位置情報や確保できる場所のサイズ)をUMPCからExcelシートに入力、メールで企業内システムに送信する。

 企業内システムでの処理の流れは、メールに添付されたExcelファイルをOffice SharePoint Server 2007のドキュメントライブラリに格納。次いでMicrosoft BizTalk Server 2006上で動作するグレープシティの「Spread for BizTalk Server 2006」でXMLデータに変換する。このXMLファイルの情報をBIシステム(すでに設置されている自動販売機の位置情報や販売予測データを格納。SQL Server 2005 Enterprise SP2が動作)および基幹システム(自動販売機のサイズや型番といった製品情報を格納。Oacleが動作)の情報から、候補地に設置可能な自動販売機の型番および予想される純利益などを入れ込んだシンプルなxlsxファイルを生成する。

 さらにここからアドバンスソフトウェアの「Excel Creater 2007」を用い、あらかじめ用意したテンプレートにその情報を入れ込むことで、2種類のExcelファイル(顧客提案用のリポートファイルと音声読み上げ用ファイル)を生成、それを出先のセールスマンにメールで送付する。セールスマンのUMPCにはスカイフィッシュのJukeDoXをインストールしておくことで、移動中などでも音声でその提案内容の良しあしを判断しながら提案に臨むかを決めることができる。

今回の実証実験のシステム構成(出典:マイクロソフト)

工数と開発コード数を60%削減

 この実証実験でのポイントは2つ。(OpenXMLの利用により)各製品間のデータ交換が容易に行えるという机上の論理を実験によって実証したこと。もう1つは、その際に各製品の実装を考えることなく、公開されているファイルフォーマット仕様だけで開発が行えたことである。事実、上記ソリューションの開発に当たって、各社間での打ち合わせはその多くがメールなどオンラインで行われたが、その時間の多くがビジネスロジックなどの決定に割かれ、実際のシステム連携自体は数時間で終わったという。システム構築にかかわる工数および開発コード数は平均6割削減可能という具体的な数値も導き出され、その有用性が示された。

 また、今回の実証実験に参加したOpenXML分科会のメンバー企業は、いわゆる中小規模のISVと見ることができる。しかも、その多くが地方の企業だ。こうした企業であっても今回のような大規模案件に下請けではない形で簡単に参入できることを示した、という点でも大きな意義がある。

 OpenXMLによる相互運用性の容易さを示した形となる今回の実証実験。BIシステムには自動販売機の設置情報や地区別の売り上げ情報などを10万件以上格納し、1件当たり30秒程度で処理を終えることを想定。XMLのパースも実用的な速度で行われていると見てよいが、Googleが先日発表したXMLに変わるデータ交換ツールである「Protocol Buffer」のように、データ構造化の手段としてXMLは遅すぎるという見方もある。

 これについて、アプレッソ代表取締役社長兼CTOの小野和俊氏は、「確かに、(XMLを扱うAPIの1つである)DOMでパースするのは限界があるとは思う」と話す。続けて、「メモリ最適やパフォーマンス最適を考えれば、Protocol Bufferのようなものの意義もあるといえるかもしれないが、人間が読みやすい形、つまり可読性の高いXMLは、障害発生時の切りかけを容易にしている」と主張した。実際、今回の実証実験でも配列の長さなどでエラーが起こった際にOOXMLを展開して中を読むことで問題を解決できるような場面もあったと振り返った。


松倉哲氏

 wipseはその発足から1年あまりが過ぎた。wipseの会長を務める東証コンピュータシステムの松倉哲氏は、「データの標準化というテーマには、業界としてこれまで何度も取り組んできたがなかなかうまくいかなかった」と振り返る。しかし、今回の実証実験の成果を受け、「ITは金食い虫、というのが徐々に解消されるのではないかという期待もある」と話す。今回の成果をステップに、実運用におけるOpenXMLの採用を後押ししていく姿勢をみせた。


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