「どげんかせんといかん」中小企業のIT活用IT Oasis(2/2 ページ)

» 2008年10月10日 13時17分 公開
[齋藤順一,ITmedia]
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融通がきく現場にITは入りづらい

 中小製造業が基幹業務である生産管理システムを活用するにはいくつかの課題がある。

多様な生産形態:生産管理と一口に言っても、製造業の生産の仕組みは千差万別で会社の数だけ生産の仕組みがあると言ってもいいほどだ。作るものが素材か、部品か、製品か。製品種類は多品種少量か少品種大量か。加工プロセスはプロセス型か、組立型か。生産方式はロットか、フローか、バッチか。その他、加工プロセス、機械配置、組み立て方式など多くの製造要件があり、これらに応じて何を管理すべきかがそれぞれ異なってくる。

スコープ:生産管理にどこまでを含めるかもさまざまである。在庫管理や納品、発送管理、生産計画までを含めるか、支払い、請求との連携をどう扱うかなども色々なパターンがある。こうした種々の要求に応えるため、市販されている生産管理システムは特定の企業向けに個別開発で作ったものをパッケージ化したものが多いようである。このため何種類もの生産管理パッケージを保有しているベンダーもある。

人間系優勢:中小企業の生産管理は難しい。人間系の融通のきいた管理を前提にして成り立っているので、システム化にはもともと向かない。融通がきくというのが中小企業のコンピテンシーなのである。ベンダーの提供するパッケージは大企業向けのものをアレンジして中小企業向けとしたり、買いやすくするために機能を落として価格を下げたものなどがあり、中小企業には必ずしもマッチしないものも多い。

MRP:生産計画にMRP(material requirements planning)を適用することをウリにしているパッケージもあるが、中小企業ではMRPはあまり役に立たないケースが多い。それは定常的な在庫管理をするケースが少ないからである。在庫管理や購買オーダーは将来の受注予測や部品の入手しやすさなどを織り込んで意思決定するものであり、あらかじめ定めたルールで運用可能な場合は少ないからである。大企業は生産バッファとして下請けを使うことがあり、こうしたケースでは安定的な生産というのは望めない。

動的ボトルネック:工程におけるボトルネックも一定ではない。TOC(Theory of Constraints)のようにはいかないのである。下図を見て欲しい。素材から緑の部分をルータマシンで切り抜き、ボール盤で穴をあけるA、B2種類の製品がある。ルータマシンの工程ではBの方が時間がかかり、ボール盤の工程ではAの方が時間がかかる。流す製品によってボトルネックが動的に変わるのである。実際の生産現場ではもっと複雑である。ボール盤が複数あったり、処理能力が違っていたり、熟練作業員と新人作業員がいたり、納期が違っていたり、考慮すべき要素が多数あるのである。これをコンピュータで管理するのは困難が伴う。

動的に変わるボトルネック

作業山積み:作業山積みを支援するパッケージもあるが、無制限山積みでは人手による調整が必須であり実際には役に立たない。制約を考慮するとしても、作業変更にはパート呼び出し、二交代勤務、残業・休出、外注委託などコミュニケーションが必須でありソフトだけで解を出すわけにはいかない。

 このように生産計画にITを適用するのは困難を伴うのが現状である。

 生産管理の各所で必要となる意思決定の場面では担当者の経験や現状評価、将来予測が必須であり、まだ生産管理パッケージに意思決定を任せるというわけにはいかない。受注、在庫、仕掛、不良、機械や作業員の稼働率など生産現場で発生する情報を、ITを駆使してできる限りていねいにひろって意思決定者に提供し、その判断を委ねるという辺りが現実解であろう。

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プロフィール

さいとう・じゅんいち 未来計画代表。NPO法人ITC横浜副理事長。ITコーディネータ、上級システムアドミニストレータ、環境計量士、エネルギー管理士他。東京、横浜、川崎の産業振興財団IT支援専門家。ITコーディネータとして多数の中小企業、自治体のIT投資プロジェクトを一貫して支援。支援企業からIT経営百選、IT経営力大賞認定企業輩出。


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