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» 2008年12月05日 15時30分 UPDATE

クラウドとグリッドの“微妙な”関係

クラウドとグリッドの境界が分からない方もいるかもしれない。あるいは、クラウドとグリッドはまったくの別物と考える方もいるだろう。クラウドの出現をグリッドとの関連の中に位置付け直すよい機会を富士通/国立情報学研究所OGFボードメンバ、OGSA-WG共同議長の岸本光弘氏が与えてくれた。

[渡邉利和,ITmedia]

 11月13日に開催された「丸山先生レクチャーシリーズ」第1回の3番目の講演は「クラウドの最新標準化動向」と題し、富士通/国立情報学研究所 OGFボードメンバ、OGSA-WG共同議長の岸本光弘氏の話だった。内容は、OGF(Open Grid Forum)としての立場が中心だと感じられ、いわば「グリッドの世界で標準化に取り組む人間からみて現在のクラウドがどう見えているのか」を感じさせるものとなっていた(岸本氏の講演資料はこちらから)。

OGFとOGSA

岸本光弘氏 岸本光弘氏

 OGF(Open Grid Forum)が策定に取り組む標準仕様がOGSA(Open Grid Services Architecture)だ。岸本氏によれば、グリッドの進化段階として、現在は第3世代に相当するという。

 第1世代は「センタ内スーパーコン連携」だ。計算センター内の複数のスーパーコンピュータを1つの仮想計算機として利用できるようにすることに主眼が置かれた時代で、いわばグリッドというアイデアを現実に実装しようとしたころの状況だ。このときは分散ファイルシステムやシングルサインオンのメカニズムについての研究が進んだが、実態としては「固有システムを個別開発」しており、研究者がそれぞれ手作りで組み上げたものだった。

 第2世代は「公開ツールを使った分散計算システム」の時代だ。GlobusやUNICORE、Condorといったツールやミドルウェアがそろってきたことで、すべてを手作りする必要はなくなり、公開されたツールをベースに基本的なグリッドを構築し、足りない部分を補うために個別開発が行なわれた。この段階ではプロトコルやAPIが個々のツールに依存するため、いわば仕様の乱立期に当たる。

 第3世代は「標準仕様に基づくグリッドシステム」の時代だが、現在も標準仕様の策定努力が続いている段階であり、正確には今後第3世代を迎える、というところだろう。標準仕様によってグリッドのシステムの相互接続性が確保されることで、グリッドシステム間の機能競争が期待される。標準仕様の策定では、ビジネス分野での相互接続性確保のための取り組みとして多大な投資が行なわれ、膨大な標準仕様を生み出した“Web Services”の成果を積極的に活用する方針が立てられているという。

 一方で、OGFの活動はここまで一直線に進んできたわけではなく、2002年の設立以後、数回の方針転換を経験していると岸本氏はいう。活動の成果として既に複数の具体的な要素レベルの仕様が作られているが、「ユーザーにはメリットが分からず、普及が進まない」という認識に立ち、現在では基本仕様に基づくグリッドプラットフォームの上で稼働するソフトウェアからの視点を取り入れ、上位ソフトウェアからグリッドをどう利用するか、その利用法を策定するという活動を開始しているという。

 これが、グリッドの標準化に関する現在までの大まかな流れとなる。

グリッドとクラウドの関係

 次いで、「クラウド時代の到来」をテーマに掲げる「丸山先生レクチャーシリーズ」としてはこの先が本題となるが、グリッドのこれまでの標準化の取り組み流れと、現在のクラウドコンピューティングの動きはどう関連するのだろうか、という点に話が進んだ。

 岸本氏はグリッドを「クラウドの実装技術」とし、「クラウドを実現する標準技術群」と位置付けた。確かに、以前からのグリッドについて知っている人であれば、むしろなぜ急にグリッドをクラウドといい換え始めたのか、と疑問に感じるくらい、クラウドとグリッドの境界はあいまいなものに感じられるだろう。

 岸本氏はJames Governor's Monkchipsというブログから「クラウドではないものを見分ける15の方法」というエントリを引用し、クラウドではないものの筆頭として「ラベルの裏側に、GRIDとかOGSAとか書いてあるシステム」が挙げられていたと紹介、会場からも失笑ともつかぬ微妙な笑いが起こっていた。どうも、これまでグリッドを推進してきた立場の人からすると、クラウドは技術的にグリッドの延長上にあるか、あるいはまったく同じものと考えてよいものと認識されているのに対し、クラウドコンピューティングの側に立つ人の間では「グリッドとは違う」という認識が一般的なようだ。

 今回は、「この状況をどうするか」ということがテーマとなっているわけではなく、いわば現状報告という形ではあったが、過去のグリッドへの取り組みについて関心があった方にとっては、唐突とも思えるクラウドの出現をグリッドとの関連の中に位置付け直すよい機会となった講演だったと思われる。

 同氏は最後にまとめとして、「グリッドはクラウドの実装技術であり、両者のシナジーを目指した検討が急務」としつつも、「クラウドの標準仕様に基づく相互接続を考えるには現状はまだ時期尚早であり、それよりも、あるクラウド上で実装したサービスをほかのクラウドに移行できるような“移植性提供”を考える方が現実的だろう」とした。

 現在はまだ、クラウドの構築/提供者と利用者が同一企業である場合の方が成功例として目立っている状況ではあるが、現在のiDCのように、多数のユーザーがサービス/プラットフォームとして既存のクラウドを利用することが一般的になってくれば、クラウド間の相互接続を実現する標準仕様や、クラウド間でのサービスの自由な移行を可能にすることが強く求められるようになるのは間違いない。時間的には直近の話とはいえないが、考えておくべき重要なポイントだろう。

お知らせ

丸山先生レクチャーシリーズ第2回は12月16日開催です。第2回のテーマは「クラウドのエンタープライズ利用をめぐって」。参加登録はこちらから。


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