コラム
» 2008年12月14日 02時30分 UPDATE

日曜日の歴史探検:AndroidはZaurusにまたがるか

15年近くの長きにわたってビジネスマンや玄人開発者に愛されてきたシャープのZaurusが生産を停止していたことが明らかとなった。この間、シャープは何を得て、次に何をしようとしているのかを考えます。

[前島梓,ITmedia]

 すでにスラッシュドット・ジャパンなどでご覧になった方も多いかと思いますが、12月13日、シャープの「Zaurus」が生産を停止していたことが明らかとなりました。在庫がなくなれば、販売も中止されることになります。すでにその予兆は見られていたことから特に驚くには当たりませんが、かつての姿を知る人間にはかなしい姿でもあります。今回は、シャープとZaurusのこれまでとこれからについて振り返ってみましょう。

Zaurusに感じた未来の生活

 「液晶のアクオス」という単語が今日では代名詞のようになっているシャープ。ところが、ビジネスマンの中には、今でも「Zaurusのシャープ」と感じる方も少なくありません。おそらく30代以上の方には共感できるという方もおられることでしょう。

PI-3000 PI-3000

 1993年10月にシャープが市場に投入した初のZaurus「PI-3000」。6万5000円という高価格帯に属する製品でしたが、同社が1980年代から蓄積してきた電子手帳の開発ノウハウが凝縮され、さらに赤外線通信機能など人とのつながりを視野に入れたPI-3000は人々の心をつかみました。

 当時の社会がPI-3000に魅了された背景には、未来に対する半ば固定化されたイメージを共有していることも注目しておきたいと思います。この時期、わたしたちは鉄腕アトムなどに登場する未来都市のイメージを強烈に有していました。透明なチューブの中を車が走るアレです。分かりにくいという方には、スタンリー・キューブリック監督の「時計じかけのオレンジ」に登場するコロヴァ・ミルク・バー、あるいは攻殻機動隊などの世界を想像してもらえばよいでしょう。そんな世界から抜け出してきたかのようなPI-3000が彼らの心をつかんだのは当然のことでした。

 ただ、このころのZaurusのメインターゲットは男性であったように思います。通信機能を備えているといっても、現在では当たり前のように使われているUSBやBluetooth、無線などの“こなれた”技術が普及していない時代でしたから、本気で使おうと思ったら少しの手間は覚悟していく必要がありました。要するに、本当にその製品を愛していないとすぐに目移りするリスクを常にはらんでいたわけです。当時、OL(このいい方古いでしょうか?)が集まれば、「PDAって何?」「あの上司、Zaurusじゃなくて普通に手帳使った方がいいんじゃないの?」などと話が弾んでいたのを思い出します。

 わたしの周りについていえば、このころ自慢げにZaurusを使っていたのは、「世間体を気にして非効率なことをしている人」というレッテルを貼られやすかったように思います。今で言えば、どこかで見かけたライフハック(笑)を忠実にこなそうとするあまり、かえって無駄が多く出ている人に対して感じるイメージが近いようです。目的と手段が混乱している人、ということですね。これは極論にせよ、携帯電話ほど一般層にまで浸透しなかったのは、やはり電子手帳の域を脱しきれなかったためでしょう(アプローチの違いではありますが)。ともあれ、Zaurusは男性を中心にビジネスマンへ浸透していたのは間違いありません。

 しかし、そこからの広がりは期待したほどではありませんでした。未来のデバイスと期待した割には、通信の部分がネックとなっていたからです。今のようにどこでも無線LANスポットがあるわけでもなく、通信料金も今とは比べものにならないものでした。テレホーダイなどのサービスは固定電話ではすでに盛んでしたが、モバイル向けでこうした動きがはじまるまでまだ数年を要していました。その間、携帯電話の機能は進化の一途をたどったこともあり、「どちらかを選べといわれれば携帯電話」という状況を生み出したのです。わたしはZaurusはこのまま消えていくのではないかと当時思っていました。

リナザウが残したもの

SL-A300 “リナザウ”SL-A300。Linux用アプリケーションプラットフォームとしてQtopiaを採用したことでも話題になりました

 そんな中、2002年になるとZaurusが再び話題となりました。OSに組み込みLinuxを採用したZaurus「SL-A300」が発表されたからです。「リナザウ」と呼ばれたこのZaurusは、海外ではいち早く「SL-5500」というモデルで発売されていたのですが、それが国内でも販売されるということで、注目を集めました。「勝手知ったるOSが搭載されていれば、ハードウェアはわが手に落ちたも同然!」――そんなふうに考えた開発者がそのハック熱をZaurusに向けたのです。

 しかし今になって振り返ってみると、開発コミュニティーが大きく育つまでには至りませんでした。Qtopia開発者のコミュニティーからは知られた存在となっていましたが、Zaurusが市場に占める影響力はすでに弱くなっていました。中には、優れた技術でリナザウをハックする個人の方も多くいましたが、全体としては「玄人のツール」の域を出ていなかったように思います。むしろ、今ほどLinuxが普及していない時期でしたから、一般のユーザーがカスタマイズを楽しむという気軽なものではなかったのです。すでにスマートフォンやその後にくることになるiPhoneといったメジャープレーヤーの前に、Zaurusは静かに眠りにつこうとしていたのです。ちなみに、現時点で最後のZaurusとなるのは、2006年3月に発売された「SL-C3200」です。

 シャープが生産を停止したのは、当然の経営判断でしょう。早いか遅いかという話をすれば、どちらかといえば遅いのですが、Zaurusというブランドの旗の下に集ったユーザーを大切に思っていたため、と考えることもできますし、ビジネスの可能性を模索し続けたためなのかもしれません。確実なのは、そのノウハウは社内に蓄積されたということです。これが新たなシャープの新しい武器になろうとしています。

 携帯電話市場について見てみると、シャープは国内の販売台数の限界をすでに感じています。海外での販売台数を増やさなければ事業自体がそう遠くないうちに頭打ちとなるのは火を見るよりも明らかです。シャープが狙っているのは、電子手帳時代から受け継がれてきた開発者魂に、進化の過程で経験したLinuxの知識を加え、同様の思想を持つオープンなOSを受け皿にすることで再び飛躍を果たすことではないかと思います。彼らがAndroidに注目しているのはそうした理由です。

SL-C3200 SL-C3200

 海外販売では拡大する中国市場に期待を寄せているシャープですが、同市場には高機能機種と低価格機種の二刀流で臨む姿勢を見せています。ハードウェアスペックが高いものと、ソフトウェアのスペック(可能性といってもよいかもしれませんが)が高いものを用意することになるわけですが、販売台数に寄与するのはやはり低価格機種です。Androidがそこで大きな役割を占めるであろうことは想像に難くありません。Androidの開発者コミュニティーもその可能性を期待させる規模です。

 携帯電話端末の開発期間が短縮したといっても、基本的には長期のプロジェクトです。Zaurusの生産停止が世間の話題となっている中、すでに内部ではかつてリナザウの開発に携わった人物や、そうした人物の意思を受け継ぐような方々が集まり、あーでもないこーでもない、ドキュメントがないじゃないかなどといいながら、Androidの開発を楽しんでいるのかもしれません。アイシェアが最近行った市場調査では、Android搭載のスマートフォンを出して欲しいメーカーのトップにたったのはシャープでした。時流に乗っている印象があります。

 スマートフォンやiPhoneは、かつてわたしたちがイメージした未来都市で使われている機能を数多く備えた、文字通りマルチな情報端末というビジョンをわたしたちに訴求しようとしています。そしてAndroidはオープンなことがよい循環を生み、その中でも有利な位置にある開発プラットフォームとして期待されています。写真・動画を問わずその瞬間を記録でき、それをネットワーク経由で共有したりする、まさにライフログの共有という未来の生活に欠かせないツールがAndroidによって誕生するかもしれません。製品としては最初の終焉を見たZaurusですが、Androidによって開発スピードを高め、そこに集う多くの開発者の力を借りながら、時代に合った革新的な姿になったとシャープが確信したとき、再びこの眠れる恐竜は目を覚ますのではないでしょうか。

 実はこの文章、SL-C3200で書き上げました。気の早いZaurus使いならご存じのとおり、リナザウにAndroidを乗せるハックが話題なのにつられて久しぶりに機体を動かしました。久々に触ったということもあり少々面倒でしたが、今でもなおスマートフォンの先駆けだなと感じながらキーをたたくのです。時代は過ぎましたが、Zaurusの技術的な完成度は高かったように思います。進化したZaurusが再びわたしたちの前に登場する日、それは革命的な日になるのかもしれません。

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