パーソナルBI入門 第一回 Excelで身近なBIを体験これからのビジネスマンに必須のツール(2/2 ページ)

» 2009年04月07日 07時00分 公開
[米野宏明(マイクロソフト),ITmedia]
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BI力=見えない危機やチャンスを読み取る力

 危機もチャンスも、普通は見えないところからやってくる。だからこそ、その出来事が危機にもチャンスにもなるわけだ。ましてや、今や革新的な変化が突然訪れるスピードの時代である。目の前の出来事を、今日までの経験に従って額面通りに受け取っていても、明日にはもう通用しない。ちょっとした兆しに、他人よりもちょっとだけ早く気付いて思いを巡らせることができる人が、あっという間に大きく一歩前に出ることができるのだ。そのような読み取り力がなければ、自分にどんなデータが必要なのか分からないし、例え誰かが高度なダッシュボードとKPIを用意してくれても、赤黄青の信号の色が識別できる以外のことは何もできないだろう。

 そこで今回はこの読み取る力を主眼に、個人がビジネスシーンにおいてBIを使いこなすためのコツを紹介していく。しかし学術的な統計分析手法に触れるつもりはない。学術的に意味のあることはたいてい、実務的には意味がない。ここではできるだけスピードと簡便さを重視、少々乱暴な「ビジネスデータ分析」を心がける。なおところどころExcelを使うが、誌面に限りがあり深い機能紹介はできないので、必要に応じてオンラインヘルプなどをご覧いただきたい。

ビジネスデータ分析の心得:分析自体はテキトーで構わない

 BIの適用範囲は実に幅広い。至極まっとうなニーズとしては、財務業績の予測から、製造品質や流通の管理、研究開発における実験や検査に至るまで、さまざまな方面で、しかし比較的ニッチな目的で使われている。これらのような目的では、専用の業務システムにBIツールがバンドルされていたり、高度なシステムを既に導入していたり、あるいは分析専門家がいるかもしれない。効果のほどはさておいて、これらのツールやシステムが貢献するはずの利益の絶対金額が大きく、ここにそれなりの投資をする動機になるからだ。

 しかし、BIを今まで手付かずだった、日常的なシーンにおけるちょっとした意思決定に活用できれば、むしろそのほうが投資対効果は高いかもしれない。たぶん、新規プロジェクトに巨額の投資をしてROAを2%改善するよりも、全社員の生産性を2%向上させるほうが確実で安上がりだろう。それで今回は、個人個人の意思決定力を底上げするための「日常的なBIの使い方」に注目している。世のホワイトカラーで一番多いのは営業やマーケティング分野の方だと思うので、今回の連載では顧客データ分析のシーンを中心に見ていきたい。

 データ分析のステップは、大まかに以下のように考えておけば良いだろう。これは乱暴にやろうが緻密にやろうが変わらない。

  1. 課題設定:何が解くべき問題なのかを決める
  2. データ収集:データを集めてきれいにする
  3. 仮説設定:集めたデータの全体像を把握し因果関係を推測する
  4. 仮説検証:データを掘り下げて分析し推測が正しいかどうか検証する
  5. 意思決定:検証結果を整理し選択する

 データ=純然たる事実に基づいて「真実を推測」し「意思決定する」のがビジネスデータ分析の目的である。もちろんデータから本当の姿をぴたりと言い当てることはとても難しく、それをするためには膨大なデータと時間と知識・経験が必要だろう。しかし、幸いなことにビジネスデータ分析は学術的統計解析ではないので、本当の姿をぴたりと言い当てる必要などまったくない。

 例えば、成功率78.22%の選択肢Aと、成功率36.56%の選択肢Bの2つがあったら、誰もがAを選ぶだろう。論文を書くならそれぞれの確率をせめて小数点第二位ぐらいまでは出さないといけないだろうが、ビジネスデータ分析では数字を出す必要すらない。どちらの成功率が高いのか、五分五分より上なのかさえ分かれば十分だ。今の世の中、質よりスピードのほうが優先される。正しい選択をするためには、長い時間をかけて90%の精度の分析をするよりも、一瞬で60%の精度の分析をし、間違っていたらそれを素早く検知して修正するほうが確実で効率的だろう。分析の精度なんかよりもむしろ、選択肢をどう作るか、のほうがよほど重要なのである。

 さて今回ここまでで、何がやりたいのか大まかにご理解いただけたかと思う。次回は、具体的な顧客データ分析シーンを想定して、分析ステップを追っていきたい。

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