コラム
» 2009年06月28日 00時00分 UPDATE

日曜日の歴史探検:鉱石ラジオ――変わらぬその魅力

20世紀初頭に登場し、日常生活に定着する前にその姿を消し去ってしまった鉱石ラジオ。鉱物の結晶を通して電磁波による通信を翻訳するというロストテクノロジーには、わたしたちが忘れかけている何かがあるかもしれません。

[前島梓,ITmedia]

 鉱石ラジオ――現代に生きるわれわれは、この言葉から何を想起するでしょう。ほとんどの人にとって、鉱石ラジオはイメージがわかないと思います。ある種の感慨を伴ってその姿を思い出せるのは、かなりの年長者であり、かつ少数派であるはずです。今回の歴史探検は、20世紀初頭に登場し、日常生活に定着する前にその姿を消し去ってしまった鉱石ラジオを取り上げます。

簡単お手軽鉱石ラジオ

tnfig2.jpg 構造が単純なため、さまざまな形状の鉱石ラジオが生み出されてきました(出典:peeblesoriginals.com)

 そもそも、鉱物ラジオはどういったものなのでしょう。鉱石ラジオとは、回路の一部に鉱物の結晶を用いた受信機であり、アンテナから拾った微弱な電波のエネルギーをそのまま利用してイヤフォンを鳴らすものです。電池を使わず、電波から供給される電気だけで作動するエコな端末、それが鉱物ラジオです。

 鉱物ラジオは非常に単純な構造となっています。電波を電気に変換するエネルギー変換器である「空中線回路」(アンテナやアースを指します)、空中線回路で発生した複数の電波から特定の周波数を持つ電波だけを抜き取る「同調回路」、その電波から音声を取り出す「検波回路」(ここに鉱石を使用します)、そしてイヤフォンなどで耳に聞こえるようにするための「受話回路」。この4要素さえそろっていれば、簡単に鉱石ラジオが自作できます。第二次世界大戦中には、かみそりの刃と鉛筆のしんを用いた塹壕ラジオなども登場したほどで、少し電子工作に興味があれば、簡単に自作することが可能です。


tnfig1.jpg 鉱物ラジオの構造図(出典:Wikipedia)

 鉱石ラジオを作る上で最も重要な素材はもちろん鉱石です。鉱石ラジオでは、一方向にしか電流を流すことができない性質を持つ鉱石に電気信号を通すことで、マイナスの電流を取り除きます。これを「検波」と呼び、検波に向いた鉱石としては、方鉱石や黄鉱鉄、紅亜鉛鉱などがよく知られています。しかし、極端な話、10円玉でも検波することは不可能ではないので、さまざまな鉱石・鉱物で検波を試すことが、鉱石ラジオの楽しみでもありました。

全国鉱石化

 現在のNHK東京放送局であるJOAK東京放送局が日本初のラジオ放送を行ったのは1925年。今から80年以上前です。ここから徐々にラジオが普及していくことになります。その3年後の1928年、感度のよくない鉱石ラジオで全国どこででも放送が聞けるように、東京や大阪など7つの都市に10kワット局が、3都市に3kワット局がそれぞれ新設されます。この事業は「全国鉱石化」と呼ばれ、鉱石ラジオにとっては黄金時代が幕を開けたはずでした。しかし、エリミネーター式(電灯線から電源を取れるタイプ)の真空管ラジオが市場に出回るようになり、また、多局化が進んでいくにつれ、同調にクセがある鉱物ラジオは非常時のラジオとして位置づけられるようになり、しだいに表舞台から去っていきます。その後、電子工作などの教育的な分野で教材用として用いられることはありましたが、1950年代にゲルマニウムラジオが登場すると、完全にその姿を消してしまいました。

 鉱石ラジオは、現代からするとロストテクノロジーといえます。ラジオ自体がメディアの第一線からすでに退いているのもご存じのとおりです。1秒の間に何十万もの検索クエリが飛び交う現代にあって、分離が優れず、混信も多い鉱石ラジオは頼りない存在かもしれません。しかし、電磁波に乗ってやってくる情報を小さな鉱物でキャッチするという行為は、その背後にある天然の力を感じずにはいられません。

 今日では、大人の科学シリーズから「磁界検知式鉱石ラジオ」として製品化もされています。鉱物の結晶を通して電磁波による通信を翻訳する鉱物ラジオは、TCP/IPでの通信になれきったわたしたちに、一種の清涼剤として機能するかもしれません。心安らぐ現象にぜひ触れてみてください。

最先端技術や歴史に隠れたなぞをひもとくことで、知的好奇心を刺激する「日曜日の歴史探検」バックナンバーはこちらから


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