3〜5年後の実用化を目指す新技術、NEC研究所が披露

NEC中央研究所が3年ぶりに研究成果を公開。ネットワーク運用とデータ処理、音声認識に関する研究を紹介した。

» 2009年06月29日 15時58分 公開
[國谷武史,ITmedia]
國尾氏

 NEC中央研究所は6月29日、NECグループの研究開発への取り組みについてメディア向けに説明を行った。数年後に実用化や事業化を目指す3つの研究テーマについて進捗状況を紹介している。

 冒頭、NEC執行役員兼中央研究所所長の國尾武光氏は、同研究所の活動について説明。「われわれは、NECおよびグループ企業へ革新的な技術や既存事業を発展させる研究成果を提供することが使命。3〜5年後に実用化できるものや、10年先のビジネスにつながる研究を、産学官連携や市場開拓を含めて推進している」と話した。

 現在、中央研究所には約1000人の研究者が在席するほか、欧米中に展開する海外研究所に計300人が研究に従事している。ソリューションおよびIT・ネットワークシステム、材料・プロセスなどの基盤研究グループと、事業部との橋渡し役を担うビジネスイノベーションセンターなどが組織されている。2009年度のNECグループ全体の研究開発費は約2800億円で、このうちの約1割が中央研究所関連となる。

 今回紹介されたのは、「プログラマブルフロー・スイッチ」というネットワーク関連技術と、大規模データのストリーム処理技術、音声認識技術の3点。

 プログラマブルフロー・スイッチは、ネットワークの制御機能とデータの転送機能を分離させることで、ネットワーク運用の柔軟性を高めるというもの。同社の取り組みでは、個々のネットワークが持つ制御機能を一元化し、ネットワーク自体にはデータ転送機能のみを持たせるようにしている。

 従来は決められた1つの経路で映像や音声、ファイル転送などを行って通信量が増加すると、データ映像が乱れたり、音声が途切れたりしてしまう。新技術では、サービス品質の保証(QoS)やセキュリティ対策、経路制御といった機能を1カ所で管理できるようになり、異なるネットワーク環境を動的に切り替えながら、サービスレベルを高められるという。

10Mbpsの回線でストリーミング映像とファイル転送を共有した場合(左)と、プログラマブルフロー・スイッチで動的にストリーミング映像を別回線に切り替えた場合の様子(右)

 同研究所では、従来のネットワークを「レディーメイドネットワーク」、プログラマブルフロー・スイッチによるネットワークを「オーダーメイドネットワーク」と呼んでいる。レディーメイドネットワークは、ネットワークの設計・構築段階で事前にサービスに応じた制御方法を定められたものを意味するという。オーダーメイドネットワークは、サービスニーズに応じて、ネットワーク制御を自在に可変できるのが特徴になる。

 「プログラマブルフロー・スイッチは、特にクラウドコンピューティングのインフラとして活用が期待される。データを処理するネットワークを分散化することで、運用効率が高まる」(國尾氏)

 現在の進捗は、理論の実証に成功したレベルだという。NECでは米スタンフォード大と同研究のプロジェクトを2008年末に立ち上げており、2011年以降に大規模データセンターでの採用を目指す。

 大規模データのストリーム処理技術は、センサーネットワークなどから提供された大量のデータを幾つかの段階に分けて部分的に処理し、流れ作業で結果を得るというもの。これにより、データ処理のリアルタイム性や効率性が高まるという。

仮想PC型シンクライアントを集中管理するデモ。仮想マシン(VM)の稼働状況が分かり、稼働中のVMを集約させて電力消費を節約する

 同研究所では、特にノートPCや携帯電話、自動車といった移動体に搭載されたセンサーから収集する情報に処理に役立つことが期待されるとしている。デモでは、何万台もの自動車から寄せられた情報から、生活道路も含めた広範な道路の渋滞状況を数秒で解析する様子や、数十台のサーバに格納された仮想マシンの稼働状況を監視する様子を紹介した。

 音声認識技術は、同社が1960年代から継続的に取り組む研究テーマで、近年は株主総会の議事録を自動作成するなどの成果につながっている。最高裁判所と共同で公判記録の作成についても実証実験を進めている段階であるという。

 今後は、複数の話者が同時に言葉を発した場合や、さまざまな雑音が混在した環境でも音声を正しく認識する技術や、相関関係のない話題が次から次へと展開されても1つの辞書システムで対応できるようにする開発を進めている。

 國尾氏は、「研究成果は“C&C”(Computers and Communications=NECが提唱する概念)の実現に欠かすことができないものであり、情報爆発やエネルギー問題、社会システムの複雑化といった今の課題に対処してきたい」と述べた。

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